坂元孝行(さかもと・たかゆき)さん ワークショップ水口

坂元孝行(さかもと・たかゆき)さんは、一般社団法人よつば医療福祉総合研究所ワークショップ水口の所長です。利用者の方々がいろいろな経験を積み上げ、一般就労を視野に入れた基礎的なスキルを身につけられるようにサポートされています。坂元さんが就労支援に取り組むようになったきっかけや、ワークショップ水口で実践していることについてお話を伺ってきました。

(令和3年11月17日 ワークショップ水口にて)

入所施設との出会い

出身は愛媛県です。もともと保育士になりたくて、保育の専門学校に2年間通いました。
実習で保育園、幼稚園、児童養護施設に行きましたが、もう1ヶ所、男性の保育士さんが働いているという地元の入所施設に2週間ほど実習に行きました。
そこで初めて障害者の方と触れ合い、刺激を受けたたことを今でも覚えています。
そこは児童棟と成人棟が併設されている入所施設で、保育の現場とは違う『支援』の場でした。
実習が終わるくらいの頃、当時の係長さんが「君、今後の進路はどうするの?履歴書を送ってくれたら、何とかするけど」と声を掛けていただけたこともあり、その施設に就職、5年間お世話になりました。

福祉の世界へ再び

親の出身が滋賀県でした。
私が25歳の頃、親が病気を患い、滋賀に生活の拠点を移すことになりました。
当時の私は「福祉の世界はもういいかな」と思っていました。
洋服に興味があったので、近くの洋服屋さんに就職し、福祉の世界から一旦退いていました。
滋賀県は福祉のパイオニア的な地域であること。糸賀先生のことは愛媛にいた時から知っていたので、「滋賀に来て、福祉のことをやらないのもなあ」という思いが次第に芽生えてきました。
そんな想いが膨らみはじめた頃、びわ湖大津プリンスホテルで開催される福祉職場の合同就職説明会を案内され参加することにしました。70ヶ所ぐらいの施設や事業所が参加している中、再び福祉の世界につながる出会いがありました。障害福祉サービス事業所むつみ園の(現:株式会社ライフケアサポート代表)後藤清隆園長との出会いでした。
私と一緒に面接を受けた方は社会福祉士の資格を持っていたのですが、私は、保育士資格しか持っておらず「採用はない」と諦めかけていた時に後藤さんから電話をいただき採用していただきました。しかし、入所施設と通所の事業所は全く違っており、畑違いもいいところだったので、そこからは必死で仕事を覚え、実践の日々でした。
むつみ園で4~5年働いた後、第二むつみ園を立ち上げることになりました。
好奇心旺盛な私は自ら志願し、色々な事を経験させてもらったのちに第二むつみ園の施設長としてクリーニング事業を任されることとなりました。
当時、私物の衣類のクリーニングをしている事業所はなかったため、クリーニングの会社を見学させていただき、従業員の方がされていることを参考にしながら障害者の方に業務を提供できる方法を考えました。
そして、第二むつみ園も何年かしていくと、利用者さんも増え、お給料も1人月平均5万円ほどお渡しできるようになりました。
福祉の世界で再び働けることに喜びを感じられるようになったのもこの頃だったように思います。

ワークショップ水口とは

ワークショップ水口は、2019年4月に開設しました。
私は、第二むつみ園を退職し、2019年1月からこちらに入職し、開設準備を行いました。
就労継続支援B型事業所ワークショップ水口は、協力事業先である株式会社ライフケアサポートが運営する3つの事業(珈琲事業・デザイン事業・農業事業)から業務委託を受け、派遣のような形で仕事に携わります。珈琲事業は、事業所と同じ建物内にある喫茶店「名坂珈琲」で提供するコーヒー(ドリップバッグの製造、欠点豆を取り除くハンドピック等)の製造に関わる作業。デザイン事業は、プロのデザイナーと共働しながら、カレンダー、名刺、チラシ等を制作。農業事業は、農業のプロの助言を受けながら、提携先や作物、出荷計画を決定し、野菜の生産を行っています。
ワークショップ水口では『誰のために働き、誰のために努力をするのか』を利用者の方々に理解いただくことを基本方針に掲げています。そして、利用者の方々には、ワークショップ水口で得られた経験を自信に変え、一般就労やA型事業所へステップアップしていただきたいと願っています。
具体的な支援については、福祉の世界で長年培ってきた経験や、またプロの方々からの助言を活かしながら新しい支援の形を模索し、職員全員で実践しています。
支援する職員と技術を教えるプロが常に情報共有をすることはもちろん、利用者の方々を社会に送り出していくための勉強会を開催し、何をしないといけないかという個々の気づきの場も設けています。
また、利用者の方々との信頼関係の構築においては、コミュニケーションに重点を置いています。自己発信、自己選択を行う機会をコミュニケーションの中に取り入れ、利用者さんの協調性や思考能力の向上につなげています。
ワークショップ水口を一言で表現するのであれば『仕事を通じて自立支援を行っている就労継続支援B型事業所』だと思っています。

珈琲事業の作業室。モチベーションを上げるために、棚には完成した商品や感謝のはがきが並べられている。

本人に決定権がある

当事業所の利用を考えている方には「ここに来てください」と言うことはありません。利用するのは本人ですから、本人に決定権があることだけを伝え、検討いただいています。
だからかもしれませんが、ここを利用される皆さんは、自分で決めてここに来ているので、モチベーションが違うように感じます。
私がご本人に聞くことは「将来、何になりたいですか?」と「お給料はいくら欲しいですか?」ということです。
当事業所は、高いお給料を支払うことを一番の目的としているわけではないので、より高いお給料が欲しい場合は、他の事業所に行くことをお勧めしています。
将来の目標(職業)がある方には「社会で働くうえで大切なことを一緒に学んでいきましょう」とお伝えしています。
また、保護者の方には「B型事業所ですが、何年後かには巣立ってもらいますよ」「ここはあくまでも通過点の事業所ですから」とお伝えします。

デザイン事業の事務所で研修をしている様子

「来たいと思ったから」

中学校の時からずっと引きこもりだった方が、ここに実習に来ました。学校の先生からは「学校に来てない生徒なんです」と事前に聞いていました。コミュニケーションの手段は筆談で、実習に行けるかどうかもわからないということだったのですが、来てくれました。
「来れたじゃん。すげえじゃん。」って言ったら、彼は普通にしゃべってくれました。「筆談って聞いていたのに、しゃべってるやん」と思いました。
今では、利用者として週4~5回、みんなの前で挨拶もされています。学校に行かなかった彼に、なぜ今は毎日来ているのか直接聞いてみると「自分が来たいと思ったから」と言っていました。本当の理由かどうかはわかりませんが、1人の大人として、社会人として彼と接してきたことが良い結果に結びついたように感じています。

失敗してもいいと必ず伝える

名坂珈琲のマスターは、ずっと福祉の分野で働いていたわけでも喫茶のマスターをしていたわけでもなく医療従事者です。デザイン事業で指導している者も福祉に携わったことはありません。しかしながら、福祉分野の人にはわからないことや、視点を教えていただいています。ライフケアサポートの後藤代表には、企業的な視点や、園長もされていたので福祉的な視点から助言をいただいています。私にはない視点を持つ方々の意見やアドバイスを参考にしてきたことで、今の自分があるのだと思っています。
企業で働いてこられた方や自営業されている方など、福祉の世界では持っていない視点をここで活かしていけないか、そんなことを考えながら常にアンテナを張っています。
そして「まずやってみる」というきっかけを作り、「やって駄目なら、やめたらいい」それくらいの想いで取り組む姿勢が、自分の力になっているようにも思います。
私は、利用者さんにも職員にも「失敗してもいい」と言います。
失敗には何か原因があるわけだし、次に生かせるような失敗であればいくらでもしていいと考えています。
仮に私が失敗しても誰かがサポートしてくれると信じていますし、サポートしてくれた人に感謝することで良好な関係性を保ち、何かあれば私がサポートするという気持ちを常に持っています。
利用者さんにも職員にも「失敗すること」を通じて、人との関わり方を学んでもらいたいと考えています。

「名坂珈琲」に並ぶコーヒー豆
プロフィール

坂元 孝行(さかもと・たかゆき)

一般社団法人よつば医療福祉総合研究所ワークショップ水口 所長

地元の入所施設に支援員として入職。平成16年障害福祉サービス事業所むつみ園に入職し、平成20年より第二むつみ園所属。平成31年からは一般社団法人よつば医療福祉総合研究所ワークショップ水口開設。B型事業所からメンバーさんの目標に向かってステップアップ出来る事業所を目指し実践している。

 

 

編集後記

「人が好き」と話す坂元さん。相手を信頼しているからこそ、周りの人たちからも絶大な信頼を置かれているのだと感じました。利用者、職員という立場に関係なく、同じ働く者同士として情報を共有し、一人一人と丁寧にコミュニケーションを取っておられます。それは、利用者の方が業務のすべてのプロセスに参加し、様々な経験を積む機会を生み出すと同時に、信頼関係を深めていくためにも欠かせないことなのではないでしょうか。
互いに信頼できる関係性と、その中で生まれる交流やコミュニケーションを大切にすることは、糸賀先生が説く「全人格的な人間関係の交流」に通じると思います。坂元さんが実践されている人間関係の構築という土台があるからこそ、安心して本人が決定権を持ち、自分の理想を見つけ、目標に向かって進むことができるのではないかと思いました。

(聞き手 田端・石田)