永田かおりさん 社会福祉法人ひだまり

永田かおり(ながたかおり)さんは、社会福祉法人ひだまりの理事長です。医療的ケア児から高齢者まで幅広い世代を支えるため、デイサービス、小規模多機能型居宅介護、地域密着型特別養護老人ホーム等、様々なサービスを展開しています。「ひだまり」を立ち上げられた理由や、重症心身障害児者のショートステイに対応した近江拠点の開設について伺ってきました。

(令和4年1月12日 わが家ひだまりにて)

「ひだまり」を立ち上げたきっかけは叔母の一言

当時55歳の叔母が、これから先の人生を考えたときに、地域の中で居場所づくりをしたい、子供からお年寄りまでが自由に行き来できる場所をつくりたいと言ったのがきっかけです。この叔母は、普通の一般市民です。私は看護師をしていたので、看護師の私がそこに関わることによって、より充実して、安心して人が集まれるのではないかというので、「かおり、一緒にやって」と言われました。

そこで、どうやって運営していくかを勉強するため、研修に行ったり、先輩方に教えてもらったり、行政機関に相談に行ったりしました。そのときに、「富山型デイサービス」に取り組む惣万佳代子さんの存在を知り、勉強に行かせていただき、空き家を探して活動を立ち上げようと思いました。

職員にしっかりとお給料を払えないと若い方は参画できないので、介護保険を基盤にしようと考えました。そのころ滋賀県でも「ふれあいデイサービス」という補助金制度があったので、その補助金を受けた上でデイサービスから始めることにしました。でも、夢の実現は介護保険ではなくてやはり地域づくりでした。

私も叔母も長浜の出身で、場所を探していた時に、たまたま米原町の役場の方々が職員研修で富山県のフォーラムに行かれた後で、町長さんをはじめ、役場の方たちが活動へのイメージを持ってくださいました。そして、当時、認知症を支える家族の会のようなものがあり、その中の1人が空き家を持っていらっしゃって、「ぜひそういった活動に使ってほしい」と町にお話しされていたところを引き合わせていただき、米原で活動することになりました。NPO法人格を取って、デイサービスとお子さんの預かりをスタートしたのが2003年(※1)です。デイサービスに来ない人、一般のお年寄りの皆さんにも来ていただける場所として始めました。

 

※1 2003年NPO法人ひだまり設立。2015年社会福祉法人ひだまり設立。2016年に全事業を社会福祉法人ひだまりに統合。

 

医療的ケアが必要な2歳児の母親と出会い、障害児の一時預かりを始める

事業を立ち上げた半年後ぐらいのある日、医療的ケアが必要な2歳のコウちゃんとお母さんが、町の保健師さんに連れられてやってきました。理由は、コウちゃんが2歳になり、お母さんは育休を全部使い終わるので復職したいのだけれど、保育園で預かってもらえなくて困っているというご相談でした。うちが「宅児・宅老」をしていたので、「お子さんを預かってもらえるんですよね」ということで来られました。コウちゃんは喀たん吸引が必要で、正直驚いたんですけど、お母さんと話をしているうちに、「何で健常児さんを生んだら仕事ができて、障害児さんを生んだら仕事できひんの?これってすごい不思議」と素朴に思いました。

お母さんは、3年かかってやっと仕事に復帰できると思っているのに、ここで道を閉ざしてしまうと家で取り残されてしまうのではないかといろいろ考えて、「できるかどうかわからないけど一緒にやってみましょうか」とお話をして、お試しみたいな感じでスタートしました。まずは、お母さんと一緒に来てもらって、それから半日来てもらってと徐々に慣れてもらいながらコウちゃんを見たのが子供を預かるようになった始まりです。たまたまその子が医療的ケアが必要な子だったということです。

コウちゃんを最初に預かり、その後すごくびっくりしたのは、他のお母さん方から、「ひだまりさん、お子さんの預かりをしているんですか?」「学校帰りは駄目ですか?」等の問い合わせが来るようになったことです。1件1件、困っているなら預かりましょうとしていくうちに、どんどんと広がっていき、いろいろな世代の子が来るようになり、最終的には、放課後に預かる形になりました。子供たちが大きくなって18歳を超えると、今度は作業所等に行かれますが、土日がお休みで2日間は家にいて、「土曜日だけでもうちの子を継続して見てもらえませんか」という声を聞くようになり、土曜日や祝日の預かりも始めました。制度としては、最初は放課後等デイサービスを活用し、その後次々と制度は変わっていきましたが、やっていることは一緒でした。

地域密着型特別養護老人ホーム「わが家ひだまり」の外観

自分も介護保険を使い、一緒に子供と過ごせる場所

お父さん、お母さんが年配になってきて、ご病気になられて、お子さんが遠くに入所しましたという話も聞くわけなんです。「近くに入所施設があってほしい」「近くで泊まりってできないのかな?」という声を保護者さんから聞いて、じゃあ、どうしたらできるんだろうと何年か前からずっと考えるようになりました。でも、医療的ケアが必要な方や重症心身障害のある方は、預かるときの壁というのがどうしてもあって、だからどこの施設も夜間の支援というのがなかなかできないのだと思うんです。そこで「看護小規模多機能という介護保険のシステムとうまく組み合わせると夜間も見ることができるんじゃない?」と考えて2021年4月に開設したのが近江拠点(※2)です。

最終的には、お母さん、お父さんが高齢になったときに、同じ拠点で高齢者部門と障害者部門の支援があると、自分はもう子供の面倒を見られなくなっても、自分も介護保険を使い、一緒の空間で過ごせるなと思ったのです。今はまだご自身が介護保険を利用し、お子さんが障害福祉サービスを利用している高齢のお母さんはいらっしゃらないですが、そういった複合相談ができたり、介護が必要になったときに、同じところで子供にも会いに行けたりすることが、私の目指す居場所です。今は日中の支援と夜間の支援だけですが、時にはお泊まりが出来、そしていずれのために住まいがあると、より良いのだと思っています。

 

※2 障害児らの放課後等デイサービスや生活介護と、高齢者の看護小規模多機能型居宅介護や訪問看護を併設した福祉施設。

近江拠点にある生活介護「青空ひだまり」の内観

近江拠点を運営する中で見えてきたこと

結構しんどいです(笑)。でも、親の気持ちを考えると、「自分やったらこうありたいな」「年老いた後わが子を誰が見てくれるのか心配・・」と思うので、できる範囲でやっていきたいです。

なかなか思い描くところには到達しにくいし、壁にもぶち当っていて。障害分野は高齢分野と違って、すごく期待値が高いというのも、私にとってプレッシャーなのかもしれません。「ショートステイができる」「重心さんを預かってもらえる」、中途障害の方も「あそこに行ったらリハビリができる」という期待を持っていただいており、大変ありがたいと思っています。その期待に十分応えていくにはまだまだ時間もかかりますが、職員が一生懸命、頑張ってくれていますので、少しずつ成長させていただきつつ支援を充実させていきたいと思います。

まずは、日中の支援の充実から始め、その延長線として夜間の支援、そして何かの際の急なお預かり支援を取り組んでいけたら・・と。実はこの間も、ご近所の方が「障害をお持ちの方が活動できる畑を貸しましょうか」と言ってくださいました。「うち、空いているからいいよ。」って。こうして活動を続けていることにより、何らかの形で、ちょっとした応援をしようという人は、どこかにいらっしゃる。また、ご年配のリタイヤされたドクターが「できることは限られているけれども、ちょっとアドバイスするぐらいならできるよ」と言ってくださったり、近隣の歯科医の先生が「障害児支援のお手伝いをさせていただきたい」と言ってくださったり・・本当に貴重なご縁だと思っています。一つ一つのご縁を大事にしながら、地道に頑張ります(笑)。

子供たちが大きな原動力

私はひとり親家庭で、子供が3人いるんですけれども、子供と同じぐらいこの法人は大事で、そこを子供がわかってくれていて、私がいなくても3人が家のことをやってくれていることが、ここに邁進させてもらっている理由ですね。2人目が0歳のときにスタートして、みんなここと一緒に大きくなって、よく理解してくれているから頑張れます。

最終的には、子供たちの未来にも影響すると思っているので、子供たちに時間は使えないけれども、仕事に私が時間を使うことで、いつの日か子供たちの未来に繋げられたら幸せです。

最後に

最初、活動のきっかけを作った叔母は、立ち上げ前に脳出血で倒れ、その後、私に法人を乗っ取られたという認知症妄想の症状が出てきました。私が理事長になると叔母のことを傷つけると思って、当初数年間は理事長にならず法人運営をしていましたが、最期の方は、その妄想も取れて「ありがとね」と言ってくれるようになりました。それをきっかけに、NPOの理事の方々に「あなたがちゃんとやりなさい」と言われ、そこから理事長を交代しました。叔母は最期、当法人が特養を開設する前に亡くなりましたが、私にとっては、やはり叔母が原点だったので、特養の玄関には叔母の写真を飾らせてもらっています。

「人は姿形が無くなっても、その人が築き上げてきたものや、その人が繋げたご縁は生きていく」

これからも、一つ一つのご縁に感謝して活動を続けていきたいと思います。

叔母様の写真が掲載された記事

プロフィール

永田かおり(ながたかおり)

社会福祉法人 ひだまり 理事長 (看護師、介護支援専門員)
病院勤務や訪問看護勤務を経て、30歳の時に「NPO法人ひだまり」を立ち上げ、民家改修型デイサービスを開設。半年後、障害児さん親子との出会いを機に障害児預かり支援を始めることに。その後、小規模多機能、認知症グループホーム、地域密着型特養、訪問看護等を順次開設。平成27年には社会福祉法人を設立し、現在はNPO法人の両輪で活動を実践中。

 

 

編集後記

糸賀先生は、著書『福祉の思想』の中で「福祉の思想は行動的な実践のなかで、常に吟味され、育つのである」と記しています。福祉の実現を支える思想とは、日々の実践の中で吟味されるものであり、吟味なくしてまねできるものではないというのです。
障害福祉サービスや介護保険制度が整備されていく一方で、永田さんは、制度を活用するだけでなく、活動の中で出会う人々を通して、常にどのような支援が必要とされているのか考え、それを形にしてこられました。宅児・宅老から始まり、障害のあるお子さんを持つ親のサポートという視点に広がり、また、現在は高齢になっても安心して子供とともに過ごせる暮らしの実現に向けて取り組んでおられます。その姿に糸賀先生の言葉が想起されます。永田さんの活動を支える思想は、医療的ケアが必要なお子さんやお母さん、重症心身障害のある人や中途障害のある人に出会い、一つ一つのニーズを受け止め、何ができるか模索して行動に移す過程で吟味され、形作られたものであることを感じました。

(聞き手 田端・石田)