曽田俊弘(そだ・としひろ)さん
一般社団法人フードバンクびわ湖

曽田俊弘(そだ・としひろ)さんは、一般社団法人フードバンクびわ湖の理事長です。「誰もが使えるフードバンク」を目指して活動されています。また、曽田さんは、お寺の住職でもあります。フードバンクびわ湖を立ち上げられた理由や、誰もが気兼ねなくフードバンクを利用できるために工夫していること、お寺と地域貢献活動の関係について伺ってきました。

(令和3年7月16日 フードバンクびわ湖事務局にて)

フードドライブを滋賀県全体に広げていきたい

私は浄土宗のお寺の住職です。私のフードバンク活動の原点は「おうみ米一升運動」という活動です。「おうみ米一升運動」とは、滋賀県内の浄土宗の若手僧侶で組織している「滋賀教区浄土宗青年会」のボランティア活動です。県内の各浄土宗寺院から御本尊にお供えされたお米(仏供米)のお下がりのご喜捨を募って、フードバンク等の食料支援活動をしている団体にお福分け(寄付)させていただくという活動です。お寺は、ご本尊にお供えされるたくさんのお米やお菓子等のお下がりをいただく恵まれた立場にあるので、そのお下がりを持ち寄って活用すれば、お寺ならではの社会貢献活動になるのではないかというアイデアが浮かび、それを青年会に提案し、賛同を得て、2009年から始まりました。東日本大震災等の被災地にお米を直接お届けするという取り組みもしました。お陰様で今もこの活動は続いており、お寺だけでなくお檀家様や地域の方にもご協力をいただけるようになりました。

コミュニティ内で食品を持ち寄ってフードバンクに寄付する活動を「フードドライブ」というのですが、おうみ米一升運動はまさにお寺版フードドライブです。この活動によって青年会が活発化し、会員の結束も強まりました。このことから、フードドライブはコミュニティの活性化に繋がるという確信を得て、このフードドライブを地域貢献の一環として滋賀県全体に拡げていきたいと思い、2018年に「フードバンクびわ湖」を立ち上げました。

東京の下町で炊き出しによるホームレス支援に取り組んでいる「ひとさじの会」という僧侶のボランティア団体があるのですが、このひとさじの会に立ち上げから参加したこともフードバンクびわ湖を立ち上げる機縁となりました。滋賀にも生活困窮者はいらっしゃるはずなので、ひとさじの会のような食料支援活動を滋賀でもできたらという思いをずっと持っていました。また、いやしくも僧侶の端くれ(笑)として、慈悲の実践(利他行)を果さねばならないという思いもありました。幸いにも、フーバンク活動に関心を持つ同志との出会いに恵まれ、滋賀でフードバンク活動を始めることができました。

フードドライブ(高島市)

「フードバンクびわ湖」の活動とは

フードバンク活動は、食品の寄付を募る「フードドライブ」と、食品を必要とされる人や団体に届ける「食料支援」という二つの柱から成り立っています。食料支援にはいろんな方法がありますが、その中でも特に「フードパントリー」(食品配布会)に力を注いでいます。市役所や社協や子ども食堂等諸団体と連携させていただきながら県内各地で開催しています。市役所や社協から、食料を切実に必要とされている方、今でしたらコロナ禍により収入が減ったり仕事を失ったりして給付金や貸付を受けておられる方やひとり親家庭の方に声を掛けていただき、パントリーに来ていただいています。行政と連携させていただくことで、食料を切実に必要とされている方に広く行き渡り、ご好評を頂いています。行政の窓口に食品を届けたり、窓口まで来れない方の自宅まで食料を配達するといった活動もしています。

警察署から連絡がきたこともありました。「外国籍の方で、仕事を求めて日本に来たけれどもブローカーに騙されていて、ちゃんとした手続きがとられていなかったので、帰国せざるを得なくなった。でも、コロナのためすぐに帰ることができず、仕事はもちろんないので、何とか食料だけでも支援してほしい」ということでした。そこで、2か月に亘って毎週1回食品や日用品をお届けしました。言葉の壁に阻まれうまくコミュニケーションが取れずもどかしい思いをしましたが、最後に訪問した時に、外国人支援団体の方が来て通訳をして下さったお陰で、ゆっくりお話しさせていただくことができました。その時外国人の方から「毎回食べ物が届くのが楽しみでした!本当にありがとうございました!またいつか必ず日本に来て滋賀で暮らしたい!」という言葉をいただき、名状し難い感動に襲われました。そして「フードバンク活動をやってきて本当に良かった!」としみじみ感じました。支援先の方々からいただく笑顔と感謝の言葉が日々の活動を支える原動力になっています。

誰でも利用できるフードバンクにしたい

「フードバンク=生活困窮者の方だけが利用するもの」というイメージが定着すると、困っている方が利用しにくくなるのではないかと思うのです。「フードバンクを利用していると知られたら恥ずかしい。」そのような罪悪感や羞恥心を持ってしまうと、本当に必要な方が利用できなくなるので、できるだけ誰でも気楽に利用できるフードバンクにしたいという思いは、設立当初からありました。ただし、どなたでも利用できるとなると、膨大な食品を集めなくてはいけませんが、私たちにはまだそこまでの力はなく、当然のことですが、やはり困っている方を優先しています。しかし、子ども食堂への支援には力を入れており、地域のお子さんの健やかな成長の一助になろうとしています。子ども食堂も最初は貧困対策として始められましたが、それだと利用しにくくなるということで、地域の子どもたちの交流の場・居場所という位置づけにシフトしてこられました。私たちも、子ども食堂と同じようにどなたでも利用できるようにしたいなと思います。

まずは食品をたくさん集めること。そのために、「食品ロスを地域資源へ!」をスローガンに、各方面にフードドライブの実施を働きかけています。お陰様でフードドライブに取り組んでくださる団体や企業や地域コミュニティ、食品(フード)回収箱(ボックス)を常設してくださる施設が増えてきて、少しずつですが目標に近づいているという手ごたえを感じています。

フードボックス(守山市役所)

環境と福祉の二つの領域

フードバンクというものが知られるようになってきて、だいぶ敷居は低くなってきたのではないかと思います。利用者の方は遠慮深い方が多いですけど。

フードバンク活動は、主に、まだ食べられるのに様々な理由で廃棄される食品を活用しているので、利用することによって食品ロスの削減につながるのだという意識を持っていただけたら、罪悪感や羞恥心は軽減されるのではないかと思うのです。ただ食料を恵んでもらうところだと抵抗がある方もいると思いますが、利用している方も食品ロスの削減に貢献しているとなると、もっと利用してもらいやすくなると思います。もちろんフードバンク活動は、尊いご寄付のお陰で成り立っている福祉活動なのですが、同時に食品ロス削減を目指す環境保全活動でもあるのです。フードバンク活動が、環境と福祉の二つの領域にまたがった活動であることを正しく理解していただく努力が必要だと感じています。

お寺も地域のために

もともとお寺は、「寺子屋」を開き「講」を組織してきた歴史があり、地域の人々の集いの場でした。昔お寺が開いていた農繁期託児所は、学童保育と子ども食堂の機能を併せ持ち、子どもの「居場所」の役割を果していました。今、昔のような地域に開かれたお寺の復活を期待する声が高まっておりプレッシャーを感じていますが(笑)、私は、フードドライブの拠点になることが開かれたお寺への第一歩になると思います。私が住職を勤める浄福寺にもフードボックスを設置しておりますが、そのおかげで、食品を届けてくださる多くの地域の方々とご縁を結ばせていただいています。「食べ物を粗末にしない」という「もったいない」精神がフードバンク活動の原動力ですが、これは仏教の教えそのものです。その教えを説いてきたお寺はフードバンクの拠点となるのに最もふさわしく、協力を得られやすい場所だと思います。多くのお寺が地域のフードドライブの拠点を担ってくださればいいなあと願っています。

フードパントリー(守山市すこやかセンター)

凡夫が凡夫に寄り添う活動スタンス

私たちは「もったいないを笑顔と絆に!」を合言葉に活動しています。それぞれのコミュニティでフードバンク活動に取り組むことによって、同じ地域に住む、生活に不安を抱えている多くの人が助かり笑顔になります。そして、コミュニティのメンバー同士も互いに笑顔になり、絆が深まり、コミュニティが活性化すると思います。フードバンク活動は「もったいない」「お互い様」「お陰様」精神の大切さに気づかせてくれます。この気づきの共有が、地域の「笑顔と絆」を育み、持続可能な地域共生社会実現の原動力になるに違いありません。その信念を持って、今後、滋賀にフードバンク活動の輪を拡げるために精進していきたいと思います。

フードバンク活動に取り組むようになって、「すべての人間は凡夫である」という仏教(浄土教)の人間観は正しかったと実感しました。活動を始めてから、東日本大震災やコロナ禍を経験したことによって、人間は、出あう縁や外からもたらされる煩悩によって在り様を変えられてしまう受動的で弱い存在なのだということを痛切に思い知らされました。そして、やはり自分は「凡夫が凡夫に寄り添う」というスタンスで活動に臨まなければならないと自覚しました。自分がいつ災害・事故・病魔に襲われ支援を受けなければならない状況に陥ってもおかしくないのだ。今はたまたま支援する側に立たせていただいているに過ぎないのだ。ということを肝に銘じて利用者の方と接していきたいです。食料を施す立場にいると、凡夫の悲しさ、どうしてもおごりと慢心が起こってきて上から目線になりがちです。しかし、自分も、支援を受けられる方も、諸行無常の世の中に生きる者同士、弱い者同士なのだという意識を常に忘れないよう自らを戒めています。凡夫の分を超えた偉そうな言い方で恐縮ですが (笑)。

プロフィール

曽田 俊弘(そだ・としひろ)

一般社団法人フードバンクびわ湖 理事長

浄土宗浄福寺(甲賀市水口町北脇)・西蓮寺(同市同町植)住職。

2009年度に始まった滋賀教区浄土宗青年会による生活困窮者への食料支援運動「おうみ米一升運動」の発起人。2018年にフードバンクびわ湖を設立。著書に大谷栄一編『ともに生きる仏教―お寺の社会活動最前線』(担当:第7章「食料支援と被災地支援―滋賀教区浄土宗青年会のおうみ米一升運動」)ちくま新書、2019年。

 

編集後記

糸賀先生は、障害のある子供たちに、「この子らに世の光を」あててやろうという哀れみの政策を求めるのではなく、すべての人が立派な生産者であるということを認め合える社会をつくろうと活動されました。
「フードバンクびわ湖」の取り組みは、お寺に集められたお米のお福分けから始まり、現在は、食品ロス削減に貢献する活動としても位置づけられています。生活困窮者への慈悲活動ではなく、フードバンクを利用するすべての人が、より良い地域や環境をつくるために取り組める活動なのだと感じました。曽田さんが目指すフードバンクの姿は、「生産者」同士が互いに支え合う場であり、「哀れみの政策」ではなく「この子らを世の光に」と説いた糸賀先生の願いを継承するものなのではないでしょうか。

(聞き手 田端・石田)