東恵子(あずま・けいこ)さん
八幡ハチドリの会

東恵子(あずま・けいこ)さんは、滋賀県立野洲養護学校に子供を通わせる近江八幡市の保護者らでつくる「八幡ハチドリの会」の代表を務めておられます。また、近江八幡市の市民広報リポーター「赤こんリポーター」として、八幡ハチドリの会をはじめとする市内の様々な福祉にまつわる活動やほっこりする話題を取材しています。八幡ハチドリの会を立ち上げられた経緯や活動への思いをお聴きしました。
(令和3年5月14日 社会福祉法人グロー法人事務局にて)

声を届けるために

 今、娘は、滋賀県立野洲養護学校高等部の3年生です。さかのぼりますが、2012年頃に滋賀県の養護学校の先生と保護者でつくる「滋賀スマイルの会」という会に入りました。子供たちがいきいき学べるように、と養護学校のことを考える会です。2013年には野洲養護学校のPTAの副会長に立候補しました。増築の動き等があって、その頃は学校のことが心配でした。野洲養護学校は、4市1町(野洲市、栗東市、守山市、近江八幡市(旧安土町除く)、竜王町)から障害のある児童生徒たちが通学しています。設置基準がないために特別教室や図書室を教室にするしかないなどの問題があり、4市1町の議員さんたちに設置基準についての理解を求めて要望を伝えたりしていました。

 その後、卒業後のことが心配になってきました。卒業後に娘は生活介護事業所に通所することになるんですが、近江八幡市には選択肢がまだ全然足りません。卒業した子供たちが地域で安心して暮らせることを願い、生活介護や就労継続、就労移行の通所事業所、暮らしの場の充実を求めて地域や行政に声を届けるためには、いろいろな保護者の会から声を上げた方が届くだろうなと思いました。やっぱり言い出しっぺの私が作るしかないと思って、2017年に、娘と同級生の保護者さん等に声をかけて、賛同してくださる人たちで「八幡ハチドリの会」(野洲養護学校卒業後の日中活動と生活の場づくりを進める会)を作りました。今では、近江八幡市手をつなぐ育成会を中心に、9団体で「近江八幡市障がい児者保護者連絡協議会」もできてるんですよ。

 南アメリカの民話でハチドリが山火事を消す「ハチドリのひとしずく」という話があって、小さなくちばしで水をついばみ、しずくで懸命に火を消そうとしているのを見て、周りの動物たちは、「また、バカなことして。そんな大した力にならないのに」って笑うんですけど、「私は私のできることをしているだけよ」とハチドリは言うんです。この話を文化祭で娘たちがハチドリ役になって発表したんですね。それで、会の名前は絶対にハチドリの会にしようと思いました。

 毎年、入会募集をかけていて、だいたい40名ぐらいの保護者さんが入ってくださっています。働いている方も多いので、1年前から行事の日程を決めています。そうすれば休みを取ってもらいやすいかなと思って。一度会員になったら、結構会員継続っていう方が多いです。卒業生や作業所の保護者さんで会員になりたいっていう方もおられます。

定例会(この日のテーマは「障害のあるきょうだいを持つ人に聴いてみよう」)2020年9月

八幡ハチドリの会の活動

 年6回程定例会を開催し、勉強会や茶話会、DVD鑑賞会をしています。作業所の見学にも行きます。一人や個人では行きにくくても、保護者会としてだったら交渉しやすいです。コロナ禍でまだ見学には行きにくいですが、興味を持つ保護者さんが多いので年2回くらいは、企画したいですね。我が子がどんなところでどんな風に働くのかなって想像するのは楽しいですしね。

 昨年、近江八幡市の地域別懇談会で20年後の町を考える「カタリング」がありました。それで今度、わが子との20年後の暮らしを語り合いたいと思い、八幡ハチドリの会でもカタリングをします。2040年のことを考えると暗くなるんですけど、楽しく未来を語ろうという会にしようと思っています。やっぱり大変なことも多いけど、つながり合っていきたい。結局、何がしたいのかなと考えたら、みんなが本人を真ん中にしてつながってもらいたいなって、親としては思うのです。

 八幡ハチドリの会では、要望書を提出したり市長さんと懇談させてもらったりもしています。今は、2040年の福祉の担い手不足のことがすごく心配です。それで、小・中学校の時代からもうちょっと障害のある人との交流を増やし、学校の教育の中に障害者のことを入れてもらうこと、中学校の実習先に福祉作業所を加えてもらうことを進めていただきたいと思っています。今、高齢者の施設には実習生が来るんですけど、障害者の施設は対象になっていないようです。まずは、そういうところからコツコツと働きかけようとしています。でも、要望ばっかりになってはいけないと思うので、私もできることをちょっとでもやろうとしています。それぞれができることを何かやって。まさしくハチドリ精神です。

 私たちが会を発足する前、日本障害者協議会代表の藤井克徳さんが、滋賀県に来られたときにお話しする機会があって、「とにかく場を持つこと、そしてときには楽しいことを計画して続けることが大事ですよ」っておっしゃってくださったんです。だから、今はコロナ禍の中で配慮しながらですけど、事務局会と称してランチ会もしながら活動を続けています。

「ごほうびDay」と題してミモザのリース作りをしたときの様子 2020年2月

アートはこころのつえ

 私は、高校のとき美術部に入っていました。美術館に行くことがすごく好きで、昔からよく芸術鑑賞していました。ボーダレス・アートミュージアムNO-MAが近江八幡にできた最初の頃はまだ行ったことがなかったんですけど、八幡ハチドリの会ができてからは、定例会に組み込んで毎年行っています。2月はNO-MAの「滋賀県施設・学校合同企画展ing… ~障害のある人の進行形~」鑑賞に決めてます。やっぱり保護者さんに知ってもらいたいっていうのがすごくあって、もしかしたら自分の子供も内に秘めた才能を持っているかもしれないと思ったら、希望が持てるというか。娘は、重い知的障害を伴う自閉症なんですが、みんながみんな自閉症だからアートが好きかというと、そうでもないとは思います。でも、偶然描いた図や線がユニークだったりすると残しておきたくなりますね。NO-MAの展覧会等を見ていると、障害のある人の絵が時代の先端みたいなところがありますもんね。

 以前、NO-MAの企画展で武友義樹さんというひもを振る人が紹介されていて親近感を覚えました。娘も、私や主人が布粘着テープを貼り合わせて作ったひもを振るんです。「こころのつえ」だなって思うので、自閉症の重い人には気持ちを落ち着かせる時に役立つから広げたいなと思っています。

糸賀思想との出会い

 私のいとこに脳性麻痺の人がいて、その人のお父さんである私のおじが奈良県でずっと育成会の活動をしていました。その頃はまだ養護学校は義務化されていないときで、義務化を目指して運動をしていたようです。「この子らを世の光に」と書いた鉛筆を売る募金活動もしてました。その鉛筆は、まだ削らずに筆箱にあります。

 当時は、おじがそのような活動をしていることは知っていましたが、子供だった私は、まったく興味がありませんでした。今は娘の障害のおかげで、糸賀さんの偉大さを知りました。糸賀さんの人生を描いた「NHKアーカイブス この子らを世の光に」という番組があって、それをみんなで鑑賞する定例会をしたことがあります。「愛はもともとあるから育つのです」とおっしゃった糸賀さんの最後の講演も出てきます。有名な話ですけど、施しをこうような「この子らに」ではなくて「この子らを世の光に」と、自ら輝くように言葉を選んだという逸話もありました。

 2016年に介護福祉士の資格を取ったのですが、国家試験の第一問が糸賀さんの問題だったので、私は絶対合格しないと!と思ったんです。本当に興奮しました!でも、私はたまたま障害児の親ということもあってわかったけど、介護分野の人の中には「誰?」っていう感じの人もいて、その偉大さはなかなか障害分野以外の人には伝わっていないですよね。

糸賀先生の言葉が書かれた鉛筆

赤こんリポーターとして楽しさも伝えたい

 近江八幡市の市民広報リポーター「赤こんリポーター」の活動を始めて今年で4年目になります。ちょうど八幡ハチドリの会と同じくらいです。市内のことだったら幅広く市の広報や赤こんのFacebookに投稿できます。花も好きなので町で芝桜が見ごろだとか、自分で種をまいて育てた花の記事を投稿したり、定例会の活動について記事にしたりしています。

 作業所の支援員さんと利用者さんが一緒に作業している姿を取材させてもらいたいと思って、市の秘書広報課に相談したら、「赤こんリポートの中だったら投稿してもらっていいですよ」って言ってくださいました。利用者さんのご両親の了解も得ないといけないので時間はかかっていますが、市内の作業所を取材するためのアポを取っているところです。

 国は地域共生社会を推進していて、また、働く年齢を75歳まで伸ばそうとしているけど、実際、それで福祉の担い手不足の解消になるかわからないし……。でも、ちょっと夢を持ちたいと思っています。障害児の親として活動することは楽しいだけじゃないんですけど、でも楽しさも伝えたいと思うので、何か協力できないかなと思って、赤こんリポートで記事を投稿しています。発表の場があるというのはすごくありがたいことですし、負担なくやらせてもらっていて、知ってもらえるので、これも一石二鳥かなって思っています。

 結局は娘のことが中心というか、もう娘の将来にちょっとでもつながればっていうような気持ちですべてやっている感じですね。親の心子知らずですけど。(笑)

ボーダレス・アートミュージアムNO-MAに訪れたときの娘希望(のぞみ)さん

赤こんリポーターFacebookページ

プロフィール

東 恵子(あずま・けいこ)

八幡ハチドリの会会長

フリーペーパーや小学生新聞の編集の仕事を経て、結婚を機に近江八幡市に転居。重い知的障害を伴う自閉症の娘と、地域の中学に通う息子の母。障害のある人が住み慣れた地域でいきいき暮らせるようにと、2017年、八幡ハチドリの会を立ち上げ、保護者同士の繋がりや学びの場を作っている。同年、ボランティア活動の市民広報リポーター(通称・赤こんリポーター)となり、地域のほっとする話題を取材している。

 

 

編集後記

東さんは、養護学校を卒業する障害のある人が地域で充実した生活を送ることができるように、行政に働きかけて、自らの声を届ける活動をしています。また、要望だけではなく、地域や行政と連携しながら、自分ができることを進んで実践されています。八幡ハチドリの会で様々な行事を企画したり、赤こんリポーターとして多くの記事を書いたりされていますが、その中心には常に娘さんの存在があることに気づかされました。本人が自分らしく生き生きと暮らせることを何よりも望んでおられることが伝わってきます。本人を真ん中に、いろいろな人がつながり合うことで近江八幡の福祉を盛り上げようとしている東さんは、「この子らを世の光に」と願った糸賀先生の福祉思想を確かに引き継いでいるのだと感じました。

(聞き手 石田)