市田恭子さん Team coccori代表

デザイナー・職人集団『Team coccori』(チーム コッコリ)を率いて、工房しゅしゅ、エクレレなど、様々な福祉事業所の商品・店舗開発をディレクションされてきた市田さん。今回はクレープカフェ「Kolmio(コルミオ)」にて、福祉事業所での商品開発に込める想いや、自分のルーツにある経験、今の働き方など、様々な角度からお話をお伺いしました。

(2022年5月11日 クレープカフェKolmioにて)

作業所の商品が変わっていかないといけない

>Team coccoriは、どんな経緯で立ち上げられたんですか?

実は私は20年近く前から福祉畑にいるんです。当時の職場で作業所の工賃を向上させるプロジェクトに携わっていたのですが、福祉作業所が食品を売っているのに「協力してください」っていうスタンスだったのが、すごく不思議だったんですよ。

だってそうじゃないですか、自分たちが何かモノを買う時って、「美味しい!」「かわいい!」「お土産にしたい!」って欲求で買いますよね。そういうものに作業所の商品が変わっていかないと。

そんな想いで、障害者の施設の商品のサポートをするプロの集団としてTeam coccoriを立ち上げて、デザイナー、ライター等の友人に「ちょっと手伝ってくれへんか?」って声をかけたのがはじまりでした。

工房しゅしゅ「湖のくに生チーズケーキ」
個性豊かな県内六つの酒蔵の酒粕を贅沢に使った生チーズケーキ。社会福祉法人あゆみ福祉会が運営し、「Team coccori」がパッケージデザイン・販売戦略・広報戦略を担う。2013年には観光庁主宰『究極のお土産』に選定。
https://chou-chou11.com/

>作業所の商品にも可能性があると、市田さんの中で確信したきっかけはあったんですか?

さをり織りってあるじゃないですか。あれを見たときに、「こんなに綺麗で個性的なものが世の中にあるんだ!」ってすごく興奮したんです。上司や作業所の所長さんは「何を言ってんの?」みたいな反応でしたが(笑)。

でも、東京のデザイナーに見せたら「1回これ、展示してみいひん?」って言われて。東京の展示会に持っていったら、有名なデザインプロダクト会社の社長さんが「面白い」と言ってくれて。

そこから、作業所の商品は見方を変えれば、もっと世の中に出るんじゃないかなと感じたんです。そのタイミングで工房しゅしゅさんの話も入ってきて、Team coccoriの中で、「どうすれば売れるのか?」という観点でデザイン・設計して、商品を作り上げました。

さをり織り
色や織り方、素材などを自由に使い、従来の織物の均一性やパターン化から抜け出した織り物。

想いがある職員の存在が一番大事

>プロデュースするときは、プロ集団として外部から関わるんですか?

はい、外部から関ります。工房しゅしゅの場合は、ちゃんと動こうとする職員がいたのが成功の要因です。現場サイドにちゃんとキーとなる人、一緒に動く人がいればきっとうまく行きます。

>やっぱり職員側の気持ちも大事なんですね。

利用者の方々は、「お金もらえるんやったら頑張って働こう」って案外淡白に考えている人も多いですが、職員側は、別に頑張らなくても同じ給料をもらえるわけじゃないですか。だから、職員をどう焚きつけるかがポイント。こういう仕事は、利用者だけでなく職員のケアもすごく大事ですね。

配置換えとかもすぐあるし、内部から「あいつ、何してんねん」みたいな目を向けられることもある。組織内の軋轢に耐えられるか、という難しさもありました。

「滋賀にはこんなんがある」と誇れるものを

>これまで様々な商品や店舗をディレクションされていますが、企画を進める時の一貫したコンセプトはあるんですか?

そこはずっと変わらず、滋賀県の住民が誇りに思えるものを作りたいというのが一番です。工房しゅしゅ、エクレレ、進行中のプロジェクトも、滋賀の人が他県の方に、「こんなんある」「こんなん東京でも売ってるよ」みたいなことを県民の方が言えるようなモノづくり、コトづくりをやれたらなというのはずっと変わりません。

「エクレレ」
2014年6月にオープンした焼き菓子店。ケーキのようにデコレーションされた細長いエクレアが名物。「Team coccori」がディレクションに携わる。能登川駅徒歩5分。

>そうなんですね。ご出身は滋賀のどちらですか?

近江八幡です。

>今インタビューさせていただいているKolmioを近江八幡に設けたのも、地元への想いからですか?

いや、これはたまたま。改装の話を大家さんからもらい、店舗をやってみようかなと。当時、滋賀県のブランドPRの仕事をしていて、月の半分は東京にいたんです。でも東京の人に滋賀の話をしても「じゃあ、滋賀のどこに行けばいいですか?」と言われると、なかなか返せなくて。「あそこに行ってください!」と言えるような場がつくっていけたらいいな、というフワッとした感じで始めました。

>この20年で滋賀県の変化は感じますか?

滋賀にいる人が紹介したくなるモノやコトが増えてきたなとは思い始めていて。帰ってくる人も増えてきたし、東京の大学を出たあと滋賀で働きたいという子も増えてきた。地元・滋賀のために働くという選択肢も、学生とか若い世代が堂々と言える土地になってきたかなとは思っています。

Kolmio(コルミオ)
2019年に近江八幡にオープン。市田さんが代表を務める「湖のくにのかたち」が運営。
2021年にリニューアルオープンした滋賀県立美術館のロビーに2店舗目「Kolmio in the museum」を出店。Kolmioはフィンランド語で「三角」の意。

>私も4年前に滋賀に引っ越してきて、この近江八幡の旧市街には古い町並みもある中で、こういう改装された面白いお店もたくさんあって、すごく魅力的だなと思いました。

高島とか長浜はもともとそういう雰囲気はあったんです。でも実は近江八幡はすごく中途半端で。私もそうですけど、京都に買い物やご飯に行くのも普通やし、県外の高校に通う人も多い。

長浜や高島はそれができない分、独自の文化が発展しているんです。だからこそ、近江八幡にも、そんな地元に根差した魅力的な文化を作りたいと思っていて。

常に5つくらいタスクがないと生きていけない

>商品企画に店舗運営に、東京を拠点にした滋賀のブランドPR。本当にいろんなことをされていますが、個人としてどんな風に働かれているんですか?

私の働き方は他人から見るとめちゃくちゃだと思うんですよ。(笑)。でも、そうじゃないと私は働けないんです。常に5つぐらいのタスクを同時にやってないと頭も動かなくて。

今日もこのインタビューが終わったら、美術館の会議に入るんですよ。そのあとは店舗の棚卸しとか発注の段取りをして、夜は違う友人と会うって感じで。たぶん普通じゃないと思うけど、そうじゃないと私は生きていけないので。

子どもの時は「一つに集中しなさい」っていつも親に言われたし、上司にも「一つのことをやれ」って。それが出来ひんから困っているのに。「できたらタスクを3ついただけませんか?」と言ったら「おまえ、1個もできひんくせに!」ってめっちゃ怒られて(笑)

>なんとなく想像できます。今はスタッフも増えてきて、徐々に動きやすくなっていますか?

Kolmioの2店舗でアルバイトも含め13人スタッフがいて。基本的には自由に動いてもらっていますけど、難しさはありますよね。今まではディレクション業をやってきましたが、マネジメントはまた違って、大変ですよね。

クレープを中心に、ランチプレートやデザートなど豊富なメニューが並ぶ。

パソコン黎明期にIT支援センターで固めた基礎

>2005年から福祉畑で働かれていたとおっしゃっていましたが、その頃は具体的にどんな仕事をされていたんですか?

当時2005年は、各家庭にやっとパソコンが入り出した頃で。勤めていた会社を辞めて転職活動していた時に、パソコンのインストラクターになったんです。

で、ハローワークの求人を見ていたら「障害者のIT支援」というのを見つけて。「視覚障害者、聴覚障害者の支援」と書いてあったんですが、「聞こえない人がパソコン触るのは分かるけど、見えない人はどうやって操作するの??」、と思って興味本位で飛び込んで。

いざ始めたら、見えない人は音声ソフトを使ってガンガン操作していたんです。すごく面白かった。そこから県内のALSの方やいろんな難病の方、知的障害の方にも出会いました。

>センターに県内からいろんな方がやってくるんですか?

センターに来られる方もいますし、こちらが出向くこともありました。今考えると、とても貴重な体験ですよね。ALSの方は3日前に使えていた筋肉がもう今日は使えないということもあって、そのときに、いろいろ考えさせられましたね。生活支援のあり方だったり、QOLの高め方であったり、人生の最期の瞬間をどう迎えてもらうかとか。そこでの体験が、商品を通して障害のある方にどう幸せな人生を歩んでいってもらうか、という考えの基礎固めになりました。

Kolmioマグカップ
他にも店内では、滋賀県内のアーティストの食器やアクセサリーも販売している。

「こんな面白い地域は、他にないんじゃないか」

>僕たちは滋賀の生まれではないんですが、市田さんは滋賀を愛している感じがして。今のご活動と地元滋賀への想いはどんな風に関係しているのでしょうか?

滋賀愛なんでしょうかね。少し遡るんですが、IT支援センターで働いていると、全滋賀県内に行かないといけなかったんですよ。米原の山奥とか長浜とか。それまで私は運転がすごく嫌いで、でも2~3時間かかるわけですよ。で、どうせ行くんならちょこちょこ途中に寄ったろうと思って。石碑を読んでやろうとか、面白いお店を探してやろうと思って。

>面白いエピソードですね。

だって、寝たきりの人の家で「死にたい」とか言われて、暗い気持ちで帰ってくるだけじゃしんどいでしょう。だから自分なりに楽しみを一生懸命探したんです。そしたら「こんな面白い地域は他にないんじゃないか」って思うくらいに次々に面白い人や場所に出会えて。「こんなおじさんがいてすごく楽しかった」「あそこの仏像のある村はこんな村やった」という話を、皆にも紹介したいという気持ちが一番の根底です。

「滋賀県好き」を自称する東京の友人も、私の話を聞いておもしろがってくれて滋賀を好きになってくれた人も多いんです。なので、滋賀愛というよりは、「これは面白い!」「みんなに話したい!」という関心がベースにはありますね。

プロフィール

市田恭子(いちだきょうこ)

 

デザイナー・職人集団『Team coccori』代表。滋賀県生まれ。価値が見出されず倉庫等でひっそりと眠る“モノ”に新たな価値を付けて市場に出す。10数年前よりライフワークである障害福祉事業所と商品・店舗開発を実施。現在は、店舗や地域のデレクションなど活動領域を拡げながら、滋賀のおもしろいコトをモノにのせる形づくりをしている。「湖のくにのかたち」ディレクターや、「滋賀食べる通信」編集長なども務める。

 

 

編集後記

工房しゅしゅ、エクレレ、Kolmio。東京から滋賀に越してきた自分にとって、どれもオシャレで美味しくて大好きなお店でしたが、今回インタビューするにあたって、全てのディレクションに市田さんが関わっていたと知り驚きました。「面白い!」という想いを起点に、仕事とプライベートをシームレスにして、縦横無尽に動きながら、糸賀一雄の言う「四六時中勤務」を現代に置き直したような精神で、滋賀県の福祉や文化を掘り起こしてきた市田さんの素朴な人柄に触れるインタビューでした。

(聞き手:御代田・石田)