宮本麻里(みやもと・まり)さんは、子育て応援カフェLOCO(ろこ)の代表です。子育て応援カフェLOCOは、長浜初の親子カフェとして2015年にオープンしました。LOCOはハワイの言葉で「地元」を意味します。地元のお母さんたちがふらっと寄れる場所にしたいという願いからつけられたそうです。現在は子育て世代だけではなく、シニア世代や高校生の居場所としても広がっています。起業されたきっかけや、「安心できる場」ということについて伺ってきました。
(令和2年6月9日 子育て応援カフェLOCOにて)
地域の未就園児サークルから起業
子育て応援カフェLOCOは、私と副代表の桐畑裕子さんの2人で立ち上げたんです。私たちは2人とも長浜市余呉町に嫁いで、子供が同い年で、普通のママ友という出会いだったんです。私たちの住む地域では、未就園児サークルがあり、役員は代々引き継がれていくということで2013年に私と桐畑さんが役員になり、1年間いっしょにサークルを運営しました。サークルなので、助成金を申請していろんなイベント遊びや、畑を借りて野菜を育てるということをしていました。サークルに加入しているお母さんの中には、県外から嫁いできた人もいて、「全然知らない人ばかりだから、もっと繋がりができればいいよね」などといろんな声をいただきました。サークルで使用していた施設は週1回1時間半だけ借りていたので、いつでもふらっと行ける場所ではありませんでした。だから、「今日、行きたいな」「子供との関係がちょっと行き詰まっていて、しんどいから行きたいな」と思っても、いつでも行ける場所ではありませんでした。それで、いつでも行きたい時に集まれる場所があったら最高だねというような話をお母さんたちとしていました。私の地元は、岐阜なのですが、岐阜では飲食店にキッズスペースがあって親子カフェのようなものがいっぱいあったけれども、当時、長浜にはあまりなかったので、作ろうと思いました。
2013年は未就園児サークルの役員を務め、2014年にLOCOを結成しました。この1年間は、準備期間として活動していました。できるだけ沢山のお母さん達の想いをカタチにしたいと思い、長浜のお母さんたち100人にアンケートを実施しました。困っていることや、親子カフェを作るならどんなカフェがいいですか?などを聞きました。お母さんたちも思っていることをいろいろ教えてくれて、「これは、やっぱりみんなも困っている」「親子カフェを必要としている」と私たちの思いと一緒であると確信しました。ただ単に飲食ができる場所ではなくて、居場所を必要としている。コンセプトは、とにかくお友だちの家や、実家へ行くような感じで気軽に行ける空間を提供したい。そして、お母さんがリラックスできることで、育児の不安やストレスを軽減でき、鬱や、引きこもりがちょっとでも改善できること。そして、妊娠、出産した後に、初めて子供と外出する場所として、はじめの一歩はLOCOで応援できるようになればと思いました。そして、長浜の“まち”がより元気なり、「長浜は子育てしやすい“まち”」と言われるのが目標です。
ボランティアサークルではなくて、事業としてやりたい思いがありました。でも、普通の主婦だったので起業するためにはどうすればいいのか全くわかりませんでした。いきなり長浜市役所に企画書を持って行って、「子育て世代が気軽に集える場所を創りたいのでアドバイスをください。」と相談したんです。全く担当外の課を訪ねてしまったんですが、「うちの担当じゃないけど、紹介しますね」と言ってくださって、他の課や、保健センター、経営の勉強をするところを紹介してくれました。長浜市の職員さんはすごく柔軟で、部署を超えて連携してくださいました。そこから、創業塾に通って経営について学んだり、長浜の企業さん、商店さん、各種団体さんとも引き合わせていただき、子育て応援カフェLOCOのオープンに向けて、みなさんが協力、支援をしてくださいました。そして、2015年の5月に長浜市元浜町で、子育て応援カフェLOCOの営業を開始しました。
LOCOのあゆみ
長浜市元浜町(黒壁)の長浜曳山まつりの子ども歌舞伎の練習場でもある諫皷山(かんこざん)さんの町家が建て替えるとのお話があり、そのタイミングで、授乳スペースやオムツ替え設備など私たちの想いも取り入れていただきました。普段は歌舞伎の練習をはじめ、自治会の会議で使用されていましたが、午前中は空いていたので地域のみなさんとシェアしながら週3日使わせていただきました。子供が過ごしやすい環境にするには、設備などお金がかかります。子供用のトイレや、靴を脱いで過ごすスタイルなので、それに合わせた店内にするため、初めてクラウドファンディングに挑戦しました。しかし、大勢で集まるには、少し広さが足りなかったというのと、黒壁は観光地でしたので駐車場をたくさん確保できなかったり、駅から少し遠いこともあり、観光者用の駐車場に車を止めて、そこから歩いてくるというのは、お母さんにとって大きな負担でした。
そこで、2年後の2017年に駐車場が広い八幡中山町「風の街」へ移転し、週5日の営業がスタートします。子育て世代の方との関わりがメインだった私たちですが、「風の街」でやってきて、いろんな人が自然と集まってきてくれるようになり、関わる人がもうちょっと広がったらいいな、子育て世代だけではなくシニア世代や学生も対象に展開していきたいなと感じ始めました。そんな時、えきまちテラス長浜への移転の話があり、新しい場所で事業に挑戦してみようと思い、2019年10月に長浜駅前に移転しました。世代問わずみんなが集えるあたたかい場所になったら良いなぁと思い日々奮闘しています。
えきまちテラス長浜のLOCOは、2つのフロアに分かれています。主にカフェ事業をしている「LOCO Kitchen」と女性の就労サポート、起業サポートを主な事業としている「LOCO Living」です。
母親目線だから気付けること
「LOCO Kitchen」のメインはカフェの営業で、子育て中のお母さんや、シニア世代の人たちが過ごしやすい場所を提供しています。地元の食材を使用した優しい食事、授乳中のお母さんやアレルギーをお持ちのお子さん向けのアレルギー除去食を提供しています。スタッフはみんな子育て経験有りのお母さんたちなので、必要な備品やご飯のサポートは、すぐに気づけます。ちらっと見て「麺切りがいるな」とか、すぐにいろんなものを持って行ったり、お子さんがちょっと眠たそうにしていると、お布団を持っていたりとか。それは同じ目線のお母さんだからできることだと思っています。子供が大泣きする時ももちろんあるけど、「大丈夫だよ~」「どうもないよ~」などと言いあう雰囲気です。周囲からの冷たい視線はありません。一般の飲食店だったら多少居づらい思いをすることもあります。私も経験がありますが、子供はお腹が空いていると、ご飯が運ばれてくるまで我慢できなくて、その間に号泣する。それは外出するときにすごいストレスがあります。それと、子供と外出するときは、タオルやウエットティッシュなどが必要で大荷物になりますが、LOCO Kitchenは全然持ってこなくても備品が揃っているので大丈夫です。いつでも気軽にフラッと行けるようにと思っています。
ランチは11時半から営業しているので、空いている午前中の時間を活かして、副代表の桐畑が以前保育士だったこともあり、「ろこぐみ」という月齢別の集まれる場所を提供しています。サークル活動として、ただ集うだけではなくて、会員制のようにクラスがあり、月1回集まって、みんなで時間を共有します。
他には、「LOCO Najimi(なじみ)」という65歳以上のシニア向けの居場所を提供しています。シニア世代の方が多い地域で、だんだんと集まってくださる方が増えてきてとても嬉しいです。サロンの日には、体操をしたり、趣味のお茶について学んだりしています。
「子ども食堂LOCOごはん」は月1回程度開催しています。高校生がメインの居場所です。長浜駅前には、塾がたくさんあります。塾に行く前は、みんな学校からお家に帰らず、そのまま塾に行くので、コンビニのおにぎりやパンで簡単に済ませると思うんです。でも、お母さんの立場として、ちょっとでも温かいご飯とスープを飲んで、そこから塾に行けたらいいなと思って。高校生とは、これまであまり繋がりはなかったのですが、駅前に移転してから、LOCOに少しずつ来てくれるようになりました。
女性の“働く”を応援
「LOCO Living」は、働く、暮らすがキーワードで、2016年から“自分らしく働く”を応援しています。2015年にLOCOをオープンしたときに、ハンドメイド作家さんの商品を委託販売していて、その作家さんや、育休が明けるお母さんとしゃべって、いろんな生の声を聞きました。そのときに、再就職に不安を抱える人や、起業したいけれども相談に行く場所がない、ということを聞きました。そこから一般ママ向け就労支援と、起業したい女性の支援ができないかなと思い、講師を招いてセミナーをしたり、滋賀県に相談して、LOCOの中に、滋賀マザーズジョブステーションの出張相談の窓口を設置して頂きました。そして、長浜市からも女性の就労支援についての事業を運営させていただけるようになり、再就職したいお母さんたちと一緒に企業見学ツアーをしたり、お仕事フェスタを開催しました。
現在は新型コロナウイルスの影響で予定していた事業が思うように開催出来ない状況ですが、開催のカタチも模索しながら、再就職、起業、育休中について様々な応援が出来る事業を行っています。この事業を通して長浜の女性の「はたらく」を応援できるようにと思っています。
気軽に集える場所を続けるために
起業した当初は、親子カフェのような気軽に集まれる場所があったらいいなということで始めましたが、その時から女性の就労支援もしたいと思っていました。なので、自然とお母さんたちからその声を集めるようになりました。LOCOは普通の飲食店と違って、お客さんと店員という関係、友だちと店員という関係でもない、程よい距離感の関係になって、本当の困りごとを話してくれます。そこから、いろんな困りごとがわかって、課題解決に向けて仕組みづくりに挑戦する。みんなのあったらいいなぁを少しずつカタチにできたらと日々奮闘しています。
カフェは、夜にお酒を出すわけでもないし、回転率を上げたいわけでもないです。ゆっくりと気兼ねなく過ごしてほしい、それが私たちの思いなので、その場所を守るためには、やっぱり収益がちゃんと安定していないと続けていけません。LOCO Livingを始め、収益が見込める事業がちょっとずつできてきました。60歳までは絶対に続けていくというのは起業した当初に2人で決めて挑戦しているので、しっかりと事業が継続できるようこれからも頑張っていきたいです。
宮本 麻里(みやもと・まり)
子育て応援カフェLOCO 代表
岐阜出身、余呉在住。2児のお母さん。調理師、販売士2級、食生活アドバイザー2級、カラーコーディネーター2級、ホームヘルパー2級を取得。子育てサポーター養成講座受講修了
子育て応援カフェLOCOのHP
LOCO kitchen Facebookページ
編集後記
糸賀一雄氏は、「障害の有無に関わらず人間の根っこの部分はみんな同じで、まだ何も分からない幼児のときから、親同士が理解し合っている、信頼し合っている家庭環境で育った子供と、しょっちゅういがみ合い、不和と不信が支配しているような環境で育った子供とでは、その後の人間形成に違いがある」とおっしゃっています。親も人間で、子供との関係に行き詰まったり、うまくいかないこともあります。そんな時に気軽に通えて、相談できる場があることは、親やその子供にとって必要だと思います。1歳や2歳の子供にとって、自分はどういう家庭で育ちたいのか意見を言えません。親がストレス発散や、息抜きをできる環境があることは、家庭の安定につながり、子供にとっても良い影響に繋がります。そして、宮本さんは子育て世代だけでなく、さらにシニア世代や高校生の居場所としても広げられています。昨今、家庭環境は様々です。宮本さんは、その時代にあった居場所、求められている居場所を作っています。宮本さんの実践を知り、どんな人にとっても、どこかに安心できる場があることは必要だと感じました。
(聞き手 佐倉・石田)