佐藤すみれさん NPO法人やんちゃ寺代表

臨床心理士として活動しながら、「素の自分で安心できる、10代のための居場所『やんちゃ寺』」を運営されている佐藤すみれさん。やんちゃ寺を立ち上げたきっかけや、子どもたちと関わる中で大切にしていることについてお聞きしました。

(2023年7月19日 やんちゃ寺にて)




個性は削り取るべきものではなく、きっと誰かの長所になる、価値になる

>やんちゃ寺を立ち上げられたきっかけを教えてください。

 臨床心理士として働く中で感じたことは、不登校や引きこもりといった社会に出ていきにくい、生きづらさを抱える子どもたちは、フリースクールさんなどが寄り添って背景を理解してサポートをするというふうに充実してきています。その一方で、反社会的に違法的な事を行う子どもたちも、劣等感や居場所のなさ、自分の価値が無いと感じています。それはどちらにも共通しているんですが、違法的な事をする子どもたちは一方的に行動を禁止されていて、何が欲しくてその行動を起こしているのかなど、根本的な解決のために寄り添ってもらえる資源がまだまだ手薄だなと感じていますし、同時に学校現場からもそういった声があります。「やんちゃ系の子どもたちが土日に過ごす場所が無い」「家にきっと食べるものが無い」そんなときに、安心して行ける場所を作りたいと思い、やんちゃ寺を立ち上げました。

 

>佐藤さんご自身も昔はやんちゃだったそうですね。

 10代の時は、ぐれていました。臨床心理士になった当初はそのことを特に周りの方には伝えていませんでしたが、たまたま私の過去を知った学校の職員さんが、「個性は削り取るべきものではなく、きっと誰かの長所になる、価値になる。だからギャルだったことを使ったらいい。」と言ってくれました。なので、今は自分の過去を表に出して活動しています。

 

>反社会的な行動をされていた当時、大学に行こうと思われたきっかけは?

 周りにいてくれた方のおかげだと感じていて、本当に人に恵まれました。当時の私は、ほとんど学校に行っておらず、夜遊びをして朝帰りして寝るという毎日だったので、もちろん単位も無いし、成績も普通は1番低いと1ですけど全部0で。そもそも私を評価する方法がなく卒業が出来るわけがなかったんですが、先生たちが私の事を見捨てずにちゃんと良いところがある、という風に見てくださって救済措置という扱いでレポートを提出して評価を付けてくださいました。大学に進学するなら心理学が合うと思うと助言をしていただき、いろんな人が助けてくれて引っ張り上げてくれました。大学も行くつもりがなかったというか、行けるわけがないと思っていたんですが、周りの方が奨学金のことを教えてくれて何とか行くことができました。現在はやんちゃ寺で行っている活動を通じて、子どもたちにも「なるべくやんちゃ寺に来てもらえたら、少しでも人生が変わるような良い人間関係がある。随分と考え方が変化するから」と伝えています。


 

否定しないという意識を持つこと

>やんちゃ寺に来ている子どもたちは、いろんな背景を持っていて、生きづらさを感じていたり、劣等感を持っていたりすると思います。子どもたちとの関わり方について、葛藤や迷いはありましたか。

 迷いというか、まずは「否定」しないという意識を持つこと。なぜ否定をしないのかということですが、そもそも話せるかどうかが大切で、本人が話すことが出来る場所であるために、否定せずに本人から見えている世界にとことん付き合って話を聞くようにしています。その子がその行動をする理由があるわけで、本人なりの、なぜその行動に移したのか、という理由を聞くことで、どうしたら寂しくなくなるのか、より良い方法を寄り添って、根本的に一緒に考えられるわけですよね。例えば、やんちゃ寺に来ている子で、未成年でタバコを吸う子もいます。やんちゃ寺の中で未成年の喫煙は推奨していないのですが、「タバコを吸うことはダメ」とそのまま伝えてしまうと、その子からのメッセージがなくなってしまうし、やんちゃ寺に来続けたほうが人生は豊かになると思うんです。それと同時に、お寺でタバコを吸うということは、やんちゃ寺が社会的に非難されること、他の子どもたちも来れなくなること、やんちゃ寺がなくなってしまうことにつながります。それは誰にとっても良くないということを全部正直に伝えているんです。タバコを吸うことを頭ごなしに怒らずに、なぜタバコを吸おうと思ったのか、を一緒に考えて寄り添うことを優先しています。

 




なるべく支援っぽくなく子どもたちと関わる

>もし、佐藤さんが過去に非行をされていた時に、「やんちゃ寺」があったら参加されていましたか。

 それについては常に考えていて、当時の私が行ける場所にしようと思っていますが、私はまだ行かないかなと思います。当時の私はすごく寂しかったし、自信がなかったので“鎧”をまとっていました。ギャルメイクをしていたのも全部“鎧”で、素の自分で外に出ることに自信がないから全く別の自分になっているという感じだったんです。壁をすごく作っているわけですよね。だから、やんちゃ寺に今来てくれている子どもたちは、まだ壁が分厚くないと思っています。もっと人間不信が強い時にでも行ってみようと思える場所になるには、もう少し時間はかかると思います。でも、そこを目標にしています。初めて来る子は全く笑わない、一言もしゃべらないということが結構多いんですが、1か月、2か月と来てくれるうちにしゃべるようになってきて、笑顔も見れるようになり、今は笑い転げて自分から冗談を言ってみたりする子もいます。来てもらうために、チラシなどはなるべく支援っぽくなく、ここに所属していることが“弱い自分”に見えるようなレッテルではなく、むしろ“誇り”になるという、そんな見え方になるように工夫しています。心をほぐすような仕掛けとして、カフェやごはんのメニューも本人たちが食べたいようなものにしています。

 



>支援っぽくないかかわり方について具体的に教えてください。

 支援ではないポイントとしては、問題があるときに行く場所ではないということですかね。何か問題があるときに来てもいいんですけど、不登校だから、万引きをしたから来る場所ではない、不登校や万引きを治す、やめさせる場所ではないという意味で支援ではないということですね。何事もないときに来てもいいし、どんな時でもずっと見守られているような地域の居場所なので、何か問題があるとしても、別にその事に取り組んでもいいし、取り組まなくてもいい。その子が学校に行っていようが行っていまいが、別に私たちの関わりは変わらなく対等ですね。だから支援じゃないというのは、本人がどんな状態でもここでは尊重される、その子にとっては妥当な理由があってそういう状態なんだということが、そのまま、ここでは受け入れられるという意味で支援じゃないという感じです。


 

川上からそもそも桃が1個でも少なくなるように

>やんちゃ寺以外の佐藤さんの活動についてお聞きしてもいいですか。

 一昨年までは県職員だったので、月曜から金曜まで心理士として児童相談所や一時保護所で働き、やんちゃ寺の活動は土日のボランティアでやっていましたが、辞めてからは私個人に講演会やカウンセリングなど、お仕事をいただいていて日頃は動いているという感じです。

 

>最近までニューヨークに行かれていましたが、海外視察を通して考えていることはありますか。

 自分の目の前のことで役に立とうという時に、世界には全然違うやり方があり、持ち札が多いほうが絶対に役立てると思っています。私がやっていることは、社会全体の構造を考えて、目の前の現場の子たちと出会うということだと思っています。例えば、生きづらさを抱えている子を桃、と例えたときに、川上から流れてくる桃を私たちは現場である川下で拾っていますが、拾える数にも限りがあって、見過ごして流れていってしまう桃もたくさんあります。やんちゃ寺に来てくれている子はいいんですが、そうでない生きづらさを抱える子どもたちはどんどん拾えずに流れて行っちゃうんですよね。だから、現場で拾うことも大事ですが、そもそも川上から流れる桃が1個でも少なくなるように、根本的には流れなくて済むようにしなくちゃいけないと思っています。現場にいる人間がなるべく制度や体制への視野を持つということが大事だなと感じているので、海外に行って、日本との違いもそうですし、どういう体制にすればどう変化するかを考えています。

 

>今後の展望を教えてください。

 やんちゃ寺がたくさん増えることが私たちの目標ではなく、もちろんやんちゃ寺が合う子はやんちゃ寺に来てくれたらいいんですが、目指していること、こちらが発したいメッセージというのは、こういうやんちゃ寺のような価値観に触れられる居場所が学校や家以外に、子どもたちの生活の中にあったほうが健康ですよねということです。なので、やんちゃ寺が正解なのではなくて、他にも色々あればあるほどいいなということが私たちのビジョンです。

 子ども時代にもっと先生や親以外のいろんな大人や学校以外のお友達と出会うことで視野を広げられるような機会が増えることが私の展望です。自暴自棄の状態、自分なんて駄目だという時に、何か自分にもいいところがあるかも、何か出来るかもという気持ちになるためには、こういう場所の存在が大事ですよね。

 

やんちゃ寺の活動の様子


プロフィール

佐藤 すみれ(さとう・すみれ)


臨床心理士・公認心理師・認定心理士。

行政職員や海外での勤務経験など様々なフィールドで活躍。
現在は10代の子どもたち、特に「やんちゃ」と言われる子たちに寄り添い、
共感することを大切に「ありのままを受け入れてもらえる場所」としてやんちゃ寺を運営。

編集後記

佐藤さんが大切にされている「ありのままを受け止める」というのは、言葉にするのは簡単でも実際の現場では難しい場面が多くある中で、やんちゃ寺という形を創り、実践されている姿、目の前の子たちのために制度や社会から変化していくために発信・アクションをし続けていると話される姿は、まさに糸賀先生が遺された言葉の「自覚者が責任者」そのものだと感じました。佐藤さんのお話や発信に触れる中で「こんなに頑張っている人がいるんだ。だから私も頑張ろう。」と勇気付けられただけでなく「自分自身は支援者として本当にこのままで良いのだろうか、もっとできることがあるのではないか。」と福祉に対する向き合い方を問い直すきっかけをもらったような気がします。

(聞き手:白井・石田)