(令和2年10月23日 地域生活支援センターしろやまにて)
生きていればいろいろあると思えること
今の仕事に就く前に色々あってしばらく人を信じられなくなったことがあり、一年ぐらい実家に引きこもっていた時期があったんですよ。友達とも連絡を取らず外部との連絡は遮断していました。会話をするのは当時一緒に住んでいた父、母、祖母ぐらいでした。別に仕事を探すわけでもなく、家事はしていたんですけど、家でずっとゲームをしていました。でも、その時にうちの親は「早く仕事しなさい」「何で家にいるの?」とか一切言わなかったんですよ。今思えばそのことがものすごく助かっているんですよね。もし、いろいろ言われていたら、そのままずっと引きこもっていたかもしれないです。
その時に、時間があったので、鬱や心の病についてインターネットや、本でいろいろ調べていました。自分もそろそろ仕事をしないとあかんなと思い始めていた頃、何か資格を取ろうかなと調べていると“精神保健福祉士”という資格があることを知りました。いままで引きこもっていたけど、そろそろ頑張ろうと思って。それがきっかけで専門学校に通って資格を取りました。今と比べて当時は、ネガティブ思考で、自分は駄目みたいな感じの考え方でした。でも、しろやまで働き始めて精神障害の人と出会ってから、生きていればいろいろあるかなと思えるようになりました。それからすごいプラス思考になり、考え方や性格が変わりました。
地域で暮らすことの課題
地域生活支援センターしろやま(以下しろやま)は、水口病院に併設する施設として2002年4月に設立され、心の悩みをお持ちの方の相談や助言、福祉に関する情報提供や地域との交流を行っています。水口病院は精神科に特化した病院なので、そのつながりで心の病で入院された方が退院する時の支援や、再入院された方が、もう一度次の生活をするための調整、一人暮らしへの移行支援なども行っています。
利用者さんは身寄りのない人が多く、地域での生活に移行するために保証人をどうするのかという課題があります。地域で一人暮らしをしようと思ったら、連帯保証人が必要なのでなかなかクリアできない人が多いです。また、入院期間が長い人だと地域で生活するのが嫌という人もかなり多いですね。「もう、病院でええわ」「今から頑張れへん」と諦めている人もたくさんいます。もうちょっと早く支援をしていれば地域で生活できたのかなっていう人もたくさんいます。なので、自立支援協議会の精神障害者部会や滋賀県の中核的人材育成事業の中で、長期入院の人をどのように支援していくかということを課題として挙げています。また、水口病院の医療職のスタッフに対して、地域移行するために必要なことなどを共有するために、地域の支援者が水口病院の看護師に研修をしたり、福祉サービスや地域にある福祉施設の説明をしています。医療と連携をすればすぐに地域移行に繋がるかといったら難しいですが、内部の取り組みとして、ここ4~5年続けています。
支援をするようになってから感じたこと
僕は、しろやまで働いて、いろんな人と関わる中で、精神障害の人には純粋な人が多いということを感じています。世間のイメージで言えば、テレビの報道等で事件の犯人に精神科の通院歴があったことに着目されすぎて、精神障害者=怖い人というイメージが先行しすぎているように思います。利用者さんの中にも、あのような報道がされるからイメージが悪くなって外に出づらくなるという人もいます。
僕らはこれまで利用者さんと一緒に近所の掃除をずっとやり続けていたり、あいさつを積極的にしていました。しろやまが設立されてから近隣住民の方とのトラブルはありません。また、住民さん向けに水口病院の見学会をするのですが、それで精神障害の人に対するイメージが変わったという方もいました。病院の室内はきれいですし、叫んでいる人もほとんどいないです。鉄格子の部屋があると思われていた方もいましたが、一切ないです。最近は、しろやまの駐車場で近所の子供たちが遊んでいることもあります。地道に活動を続けていることもあって、この周辺の人たちについては、精神障害者=怖い人というイメージは薄いのかもしれません。
安らげる居場所
しろやまでは余暇活動の一環としてバレーボールをやっています。今は新型コロナウイルスの影響で活動は休止していますが、これまでは金曜日か土曜日にやっていました。県内に精神障害者のバレーボールチームは3チームあり、昨年は滋賀県の大会で優勝しました。今年は近畿大会に出場予定でしたが、残念ながらこれも新型コロナウイルスの影響で中止になりました。でも、僕らの目的は、強いチームを作ることではなくて、あくまで余暇活動を充実させる、つながりをつくる、利用者さん同士のコミュニケーションの場としているので、自分の体調と仕事を優先してねと言っています。しんどい時にわざわざ来なくてもいいし、自分が安らぐ場所として使ってねというスタンスです。
普段まったく話さない人がバレーボールではめちゃくちゃ話をしたり、めっちゃ大きな声が出る人もいたり、仕事面や生活面で元気になっていく人もいます。また、利用者さんが自ら他のメンバーを探してきて、「この人、どうやろう」と誘ってきてくれたりと積極的になった人や、新しく友達ができたという人もいます。実習生からも「普段とバレーボールの時との違いを感じました」という感想はよく聞きます。
また、しろやまは、サロン活動を大事にしています。サロンは、何かの支援のきっかけになることがあったり、その人自身の気づきを発見できる場所だと思っています。他の業務が忙しい中でも、やっぱり、サロン活動は続けていかないといけないと思っています。
ほとんどの福祉機関は日曜日や祝日は休みが多いです。でも平日に仕事をしている人は土日祝しか来られないんですよね。なので、平日よりも祝日に来る人の方が多いので、土日祝は休まず開けています。そうでないとその人の居場所や、新たに発見する機会や時間をなくしてしまうことになるので。また、最近では発達障害の人も増えてきてるので、サロンでも個別プログラムみたいなのをやっています。自分たちが好きなジャンルでプログラムを組み立てています。例えば仮面ライダーが好きな人が多いので、その好きな人たちだけを集めてスタッフと一緒に和気あいあいとおしゃべりしたりします。集団活動だとなかなか輪に入れない人もいるのできっかけづくりみたいなところで、個別の対応も必要になってきていると思います。
自分が楽しむこと
僕は、この仕事をしてて、辞めたいと思ったことは一度もないんですよ。仕事をしていたら、誰でも一度は「嫌だ」「行きたくない」と思うことはあると思うんですけど、僕は、そう思ったこともないです。楽しいって言い方は、利用者さんに対して失礼になるのかもしれませんが、直接的にその人のお手伝いができる、その人の人生に深く関われるのは、面白い仕事だと思います。僕はしろやまに就職する前に別の仕事を2つしていたんです。これまでの仕事を通じて感じたことは、心の病を患っている人は、人間らしく純粋な人が多いんだということです。何かのきっかけで心を病んでしまって、そのきっかけがなかったら普通に過ごせていたんやろうなと思う人はたくさんいます。精神障害は、何か一つのきっかけで誰でも患う可能性はあると思います。その人の今だけを見るんじゃなくて、未来ももちろん大切だし、過去のことも大切に見ながらその人の人生を考えていくことが必要だと思います。
僕の仕事のモットーは「楽しく仕事をする」です。自分が楽しくないと目の前の人も楽しくないと思うんですよね。特に精神障害の人は相手の感情に対してすごい敏感なので、自分がイライラしている時などすぐに伝わります。もちろん、僕も楽しいばかりではなく、イライラすることもありますが、それを表情に出さないようにしています。これは、年々上手になってきているんじゃないかなと思います。いまは所長という立場から若い職員たちにも自分自身が楽しんで仕事をすることを伝えていきたいと思います。
松宮 貴義(まつみや・たかよし)
一般社団法人水口病院 地域生活支援センターしろやま所長
経済系の大学を卒業後、土木建築業の営業職として勤務。その後、精神保健福祉士の養成校を経て平成20年に一般社団法人水口病院に入職。法人内の福祉施設であるしろやまコミュニティハウスに生活指導員として配属。平成25年より地域生活支援センターへ異動、平成26年~所長となり、現在に至る。理念である「その人らしい生き方を」を実践できるよう支援している。
編集後記
松宮さんからスポーツ活動が精神障害の人にもたらす効果、人を元気にする可能性について伺いました。チームに誘われることで、人から必要とされていると感じられますし、バレーボールは、それぞれ自分のポジションがあり、役割が明確です。また、サロンでは、障害に理解がある人がいて、安心できる場が提供されています。社会においても誰かから必要とされる、自分の役割がある、よき理解者がいて安心できる場がある、これらのことが元気にさせてくれるのではないかと思います。これは、障害がある人に限らず誰にでも言えることだと思います。
また、松宮さんは笑顔で人に接することを心掛けておられます。糸賀一雄氏は、仏教の言葉で七つの施しを意味する「無財の七施」について語られています。その二番目に「和顔悦色施」という言葉があり、これは怒った顔で人に接するより、にこやかな顔で接するのはとてもいいことだという意味です。松宮さんご自身が実践するとともに若い職員の方に伝えようとすることは共通していると感じました。
(聞き手 佐倉・石田)