髭真歩(ひげ・まほ)さん
れがーとケアホーム

髭真歩(ひげまほ)さんは社会福祉法人グローれがーとケアホームの支援員です。髭さんはもともと子供が大好きで将来は保育士になりたかったそうです。しかし、ある新聞記事がきっかけで福祉の道へと進まれました。そして大学卒業後、救護施設に配属となり、その後、障害のある方のグループホームへ異動しました。福祉に関わったきっかけや、社会人6年目になり見えてきたことや考えていることなどお話いただきました。
(令和元年9月9日 れがーとケアホームにて)

きっかけは新聞記事⁈

福祉の仕事をしようと思ったきっかけは、私が中学生の頃に同年代の人たちの自殺が全国的にトップニュースになって、朝日新聞に「いじめられている君へ いじめている君へ」というコラムが連載されたことです。それを見てすごく衝撃を受けました。それまでは「子供が好きで、将来は保育士になりたい。でも、ピアノは弾けないし……」とむちゃくちゃ安易に考えていました(笑)。でも、そのコラムが衝撃で自分に何かできることはないかなと思ったのがこの世界に入ったきっかけでした。新聞とか普段全然、読まないのにそういうコラムだけ読む!みたいな(笑)。そこから児童虐待などに興味を持ち、龍谷大学で児童福祉のゼミに入りました。社会福祉士の資格を取るために学生時代に約1ヶ月間、児童養護施設に泊まり込みで実習に行きましたが、その時の経験が面白くて、楽しかったです。それまで障害福祉には全然、興味がなかったのですが、その施設で発達障害や知的障害の子供たちと出会って障害福祉に興味を持ちました。そこから守山市にある「もりじろう」という、放課後等デイサービスをしている事業所でアルバイトを始め、そこで車いすの方や重症心身障害の方と出会いました。やっぱり、そこでもめっちゃ面白いなと思って。例えば自閉症の方の行動や様子がとても気になり面白く感じることや、重症心身障害の方との関わりがすごく癒やされて。そして利用者だけでなく、そのご家族と関わり、話をすることが多く、より興味を持ちましたね。そこから障害分野に関わる仕事をしたいと思い社会福祉法人グローに入職しました。なので、児童福祉は私にとって福祉に関わった原点ですね。今でも子供の貧困問題や児童虐待の事件は気になります。私の友達は学校の先生や保育士が多くて、たまに会うのですが、今の子供の現状や発達障害の子供の話を聞くと、自分に何かできることはないかなと考えますし、児童福祉は私のベースにずっとありますね。
私は社会福祉士の資格を持っていましたが、入職した当初はまず現場でいろいろな経験をして、それから相談支援もしてみたいなと思っていました。入職一年目はひのたに園という救護施設に配属となりました。最初は介助が苦手で抵抗があったのですが、すごく楽しかったですね。2年間、ひのたに園にいましたが、いろいろ濃いのですよ(笑)。そこで人生の縮図を見たような気がしましたし、大学を卒業して22歳で社会に出て洗礼を受けましたね。ずっと身寄りのない方や野宿で生活されていた方など、自分の知らない世界があり本当に衝撃でした。私はいかに今まで家族に守られて生きてきたのかと、すごく感じました。

時代に合わせて活用する

今は障害のある方のグループホームで支援員をしています。グループホームは2棟あって合計15名の方が生活されています。車いすの方や軽度の知的障害や自閉症の方もいます。年齢は最高齢で今年79歳、最年少は今年で28歳の方がいます。365日、毎日グループホームで生活される方もいれば、週末は自宅に帰られて、平日のみ利用される方もいます。
利用者さんの高齢化が進んできて、医療面はすごく大きな課題かなと感じています。特に皆さんお薬を飲まれているので、配薬忘れの事故がないよう薬を管理するのも負担がありました。そんな中、平成30年度に総務省の‘身近なIoTプロジェクト’の一環でグループホームに服薬管理機械が導入されました。これは服薬時間になると機械のランプが光り、メロディーが鳴り、個包装された薬が出てくる機械です。それまでは配薬忘れの事故がたまにありましたが、機械を導入してから配薬忘れの事故は減りました。また、自分で服薬できる方は支援者が準備したものを渡して服用してもらう受動的な服薬から自分で服薬管理ができる能動的な服薬になりました。これまでは薬を薬局からもらってきて、利用者さん一人一人に月火水木金の一週間ごとに、朝昼晩で分けて飲みやすいように日付を書いて分けていました。これはほんまに時間がかかるのです。導入してから業務軽減にもなり、より利用者さんと関わることが出来るようになりました。他には期間限定で今は使ってないのですが、睡眠計を試験的に利用しました。これは睡眠時の状態を測定し、睡眠時間や眠りの深さを計測できるものです。自分の気持ちを言葉で訴えることができない方や、目で見るだけでは分からない睡眠の質などの情報を機械が測定してくれます。重症心身障害の方や過去に突発性心室細動を起こした方もいらっしゃるので睡眠時の様子を視覚的にしたことで当直者の安心にもつながりました。なので、服薬管理機械や、睡眠計もありますが、使えるものはどんどん取り入れ、その時代に沿ってやっていった方が支援の質を上げつつ、対利用者さんへの直接支援をより充実できるんちゃうかなというのはすごく思います。今後は自分で体調不良を訴えることが出来ない方の目で見て分からない異変を教えてくれる機械があればいいなと個人的に思いますよね。でも、お金の問題がありますけど(笑)。


服薬管理機械

「多職種との連携」と「日々、勉強」

利用者さんの通院の付き添いをするのですが、病院のお医者さんだけでなく理学療法士さん、作業療法士さん、言語聴覚士さん、栄養士さんなどの専門職とつながれます。福祉職だけではできないこともありますので、やはり連携するのはすごく大事やなと思います。それこそ以前は服薬管理機械を導入する際にIT関係の方ともお話をしました。様々な人と関わりながら、その人をどう支えるかを考えているので、その人に対して他の専門職の方がどう支援するのか知ることは、すごく勉強にもなります。また、お医者さんへ伝えるためには、自分もしっかりと理解していないといけないです。そして、そこで聞いた話を今度は自分が現場に持ち帰って、みんなに周知しないといけないので正しく伝えるためにも勉強が必要です。
他には相談支援専門員の方や行政職員、金銭管理をお願いしている社会福祉協議会の人など、たくさんの人と出会えるので勉強になりますし、自信にもつながります。利用者さんの支援面についても「こう思うんですけど……、こうしているんですけど……、うまくいかなくて……」とか、分からないことをいろいろ聞いたり、相談したり、アドバイスをいただいていろんな面で助けてもらっています。20代でこんなにたくさんの人たちと出会えてとてもありがたい経験です。


れがーとケアホーム(水戸ホーム)

時には人に頼ることも大事

私は人にお願いするのが、すごく下手くそで、自分でやってしまうと楽なので「いいですよ」と言って、ついついやってしまうのですよ。でも、「それじゃ駄目や。もっと他の人に頼りなさい」と先輩に叱られました。利用者さんの支援ももちろん大事ですが、いかに私たち支援者側の生活も充実することもすごく大事というのも分かってきました。なので、できることを変えていかなあかんなと、ちょうど3年やってきて、業務をどう簡略化するかが自分の課題でもあって、どう他の人にお願いをするか、他の人に任すことや、逆に割り切ることも大事なんやなと。人の生活を24時間365日支えるというのはすごく大切なことでもあって、すごく大事なのです。一人ではできません。だからこそやるときはしっかりやる、休むときはしっかり休む、帰るときは帰る、めりはりをつけてやりたいなというのはすごくあります。心に余裕がないと良い支援はできないと思います。人と人との関わりなので、焦りは全部相手に伝わるんですよね。焦って「あぁ、もう」と思いながら失敗したことは今までもいっぱいあったので……。心に余裕を持つためには、働く環境も良くしていかないと駄目やなと最近思います。組織の中で中堅になってきて後輩たちを支える立場になった時に利用者さんへの支援をちゃんとし、楽しく仕事してもらうためにはどうしたらいいのかと考えます。


れがーとケアホーム(下田ホーム)

これまで経験して思うことは?

グローにはたくさん事業所があり、私はこれまで救護施設ひのたに園や、現場ではないですが法人本部でも経験してきました。入職した頃は介助が苦手と思っていましたが、経験を重ねたことによって、あの頃と比べると何か違う支援ができるのではないかなと思います。今は自分なりに引き出しをたくさん作っている時期で、スポンジみたいにいろんなことを吸収したいと思います。吸収しきれないところもいっぱいありますが(笑)。しんどいことが仕事であっても、何かすごくプラスにはなるかなと思うのは、いろいろ経験してきた部分かなと。大学を卒業して初めて働いたところが社会人として自分の全てになってしまうのですけれども、グローは様々な事業をやっていて、事業所毎でやっていることは違うので、すごく勉強になるなと思います。
私の今年の目標は、利用者さんの余暇支援をいかに充実できるかです。もちろん医療面も大事で、どう支えていくかというのも課題なのですけれども、グループホームというのは、生活そのものではないですか。もちろん持病がある方には食事制限は必要で、ホーム担当としてついつい口うるさく何か言ってしまったり、言い過ぎているなと思いつつ……でも、本当に本人さんのために思うと、やりたい、食べたい、飲みたい、などの希望をどう実現していくのか、どうするのがいいのかなと思うのは自分の中で考える部分ではあります。


髭さんと共に大きくなったという、水戸ホームの観葉植物

プロフィール

髭 真歩(ひげ・まほ)

社会福祉法人グロー れがーとケアホーム 支援員

大学卒業後、社会福祉法人グローに入職。救護施設ひのたに園で生活支援員、法人本部で事務職を経験した後、れがーとケアホームに配属され生活支援員として働く。現在6年目となり、目の前でおこる事案や日々の支援だけでなく、中堅になってきた自分は何ができるのか・・・と日々模索しているところでもある。

 

れがーとケアホーム(水戸ホーム)
れがーとケアホーム(下田ホーム)

 

編集後記

れがーとケアホームでは、重度の障害のためマンツーマンでの対応が必要な方や、掃除、洗濯などの家事はおおむね自分でされる方がいらっしゃったりと年齢も障害も様々な方が一つ屋根の下でいっしょに生活されています。そこでは利用者さん一人一人のペースを大切にされています。支援員のペースに合わせてもらうのではなく、支援員がそれぞれの生活リズムに合わせて支援をしています。そして、そこにはアットホームな雰囲気があり、いっしょにおやつを食べたり、テレビを見ながら談笑したりと安心してくつろげる場であることを大切にされています。でも、その安心感の提供の裏では医療面での支援、障害特性の理解、関係機関との連携、困りごとの相談など、その方の暮らしを支えるために細やかな配慮と役割は多岐に渡ります。糸賀一雄氏は1946年、戦後の荒廃した世の中で戦災孤児や障害のある子どもの福祉、教育、医療の支援を行うために近江学園を創設されました。当時と今を比べると福祉サービスは充実し、テクノロジーの進歩でこれまで人間がしていたことを機械が代わってしてくれる世の中になりました。しかし、人が人として生きるために必要な衣食住の大切さは変わらないと思います。時代に合わせて利用できるものは取り入れますが、安心して暮らせるために行っている思いは共通していると思います。

(聞き手 佐倉・石田)