杉田健一(すぎた・けんいち)さん
NPO法人 縁活

NPO法人縁活杉田健一(すぎた・けんいち)さんはもともと入所施設で働いておられましたが、全ての人が安心して暮らせる地域共生の街を創ろうと、NPO法人縁活を設立されました。 障害者の共同生活支援事業(グループホーム)を始められた後、農業を中心とした障害者の就労支援事業、おもやを開始。おもや農園の取り組みを発信したいということで、オモヤ☆キッチンを開店するなど、様々な分野にわたる活動について、お話をしていただきました。
(平成31年2月18日 おもやにて)

「縁活 おもや」を始めた思いとは?

こんなエピソードがありました。グループホームで暮らしているある男の子から、「子どもができました。でも、堕ろします」と電話がかかってきました。「ちゃんと考えたん?」と聞いたら、「最初は、結婚するつもりだった。堕ろさないで産む」と。だけど、いろんな支援者と話していたら、「やっぱり、無理だし、自信ないので」と言って。だから僕は、「反対とかもあるけど、相手を思ってつくったんだったら産んだらいいんじゃないの?もう一度、考えたら」と言ったら、話が変わって、「産みたい」となりました。
何が言いたいのかというと、何で障害をお持ちの方が子どもを産んだらいけないのか。それは大変ですよ。でも、今、優生保護法の話がありますけど、結局変わってないなと思って。つまり、子どもができたら、きみたちは、育てられないだろと。未熟だからまだ早いという。じゃあ、いつだったらいいんですか。でも、それはその人のせいじゃないし、障害者福祉の中だけでやろうと思ったら無理ですよ。支援機関や団体にとっても、未知の世界だし。そこでできるかと言ったら分からないから、そういう立場上、無理と言うのでしょうね。でも、彼らが、2人で考えて産みたいとなったら、どうすればできるのか考えるのが福祉の仕事の醍醐味じゃないですか。新たな枠を飛び越えられるかどうか。そこに本気になれるかどうかだと思ってます。だから、小さいコミュニティをつくって、その中で彼らが過ごして、サポートを受けられるまちをつくったらいいのでは。今までの福祉のサポートを使うという考え方。でも、制度を超える部分に関しては、インフォーマルに何ができるか考えよう。そこで何か面白いことをしたいなと。
オモヤ☆キッチンの裏がグループホームで住まいがあって。ここになんか温かいものができるようなものをつくっていきたいという。そこに彼らが夫婦で住んで子育てできる。僕もここに引っ越して住むことができる。結局は、1ケースから生まれるニーズで事業や暮らしが生まれるんだと思うんです。
「仕事、楽しい?」と聞いて「楽しい」と言っている人は、それこそ1ケースを見ていると思うんですよ。その人のケースを見て何ができるか考える人は、絶対いろいろ苦労しているけど絶対面白い、楽しいと思っているんですよ。
でも、楽しくないと思っている人は、たぶん、仕事の数を見ていると思うんですよ。これだけの件数を抱えて、これだけのことをやっていて、わー、大変だって。あとは、周りのスタッフの顔を見ているか、上司の顔を見ているか。現場の当事者を見られていない方は楽しくないと思いますよ。
「福祉」ですから。幸福なんです。自分が幸福じゃなかったら、それは無理ですよ。だから、その1ケースにちゃんと向き合えること。そこに向き合ったら絶対面白くなるし、楽しくなります。こんないい仕事ないのにもったいないと思ってほしいと思っています。
だから僕も、入所施設で働いていて、勤務時間も変則で、夜間支援とかも大変だったけど、要は、僕は幸せだったんです。でも、何で辞めたかと言ったら、この仕事は、僕にはまだ早いと思ったんです。年配の障害をお持ちの方の支援は、職員さんも年配の方が多かったです。年配の職員さんが自分の暮らしの中で、互いの関係性で支援しているんです。僕は、遅れて20年後に入ってきているから、その関係性や支援には敵わなかったんです。それは、共に暮らすを実践して積上げてきた関係があったからだと思いました。それをみていいなと思ったんです。僕は、同じ時代に生まれてきた人や近い年代の人と共に年取ってサポートしていきたいなと。でも僕は、今からここでそれはできない。それだったら、自分の思うまちで、同じ時代に生まれた人たちと一緒にできたらいいなと思って。「僕は、この人らと一緒にこれから生きていくんだ」というところで支援できたらいいなと。

おもやの看板

「おもや」はどういうところですか?

おもやは、「母屋」です。ずっと青春しているところです。
仲間としんどいものを共有する、楽しいことも共有する。そういうのをやっていると思っています。結局、今のおもやはそれだと思うんですよ。みんな、青春しています。熱いところで必死になってみんなで「おっしゃー」と言ってハイタッチしながら今日一日終えて帰るって気持ちいいよなと。毎日はできないけど、みんなで声かけあう、共有する。それをやって、自分たちの中で人格形成ができたらいいなと思って。しんどかったらまた時々帰ってきたらいいと思うし。そういう場所にしたい。根本はそこにありますね。
農業は、理屈じゃなくて本当にしんどいですよ。しんどいから声かけ合うんですよね。実際、おもやでもやっていたら、「ああ、しんどい」とかずっと言っている人もいれば、キャッキャッ飛び跳ねている人もいたりするわけですよ。でも、「おい、おまえ、キャッキャッ飛び跳ねるぐらいやったらちょっと歌でも歌ってくれや」と言ったら「えー。そんなもんかなわんわ。恥ずかしいし。キャー」とか言って。でも実際は、それでしんどいのが紛れたりするんですよね。そういう役割の人やいろんな役割の人みんなが真面目にやって。僕も入って、「はい、終わり、おつかれさん」という感じで。
だから、声をかけ合ったり、笑顔が生まれてワイワイするという雰囲気づくりは、結局、みんながいて出来るんです。めちゃくちゃしんどいからこそ、そういうのをやるみたいな。「おつかれさん」と共有するという場所。おもやは、基本、ずっと青春をやっているところですよ。

農福連携(農福)について、どのようにお考えですか?

作業所が農家さんの「困った作業」に入って仕事をするのも農福ですし、農家さんから農地を借受けて農業を始めるのも農福ですし、農作物を作業所が加工するのも農福です。
そこにはまちの農家さんの「困った」があり、その中での結びつきやと思います。
福祉はまちの「困った」を一番に拾うところなので農福だけでなく幅広く連携していくことが必要やと思います。そして最後はまちづくりになるのではないでしょうか。


おもや農園

福祉で一番大事なことは何ですか?

僕は、福祉の仕事をしてきて、福祉の一番大事なところは、自己実現を目指すことだと思うんです。だから、自己実現を目指す支援をするのが僕らの仕事でしようとなったら、生きがいを見つけてほしいと思うんですよね。そのためには、自分自身を知ってもらいたいと。だから、自分を知ってもらうためには、ちゃんと社会の中での関係性の中に自分がいないといけないわけです。
世の中の困ったところに行けば、「ありがとう」という言葉を絶対もらえますよね。「ありがとう。」をもらったら、ちょっとずつ自分のことが分かってくるのと、自分のことが好きになるじゃないですか。だから、僕が「ありがとう」を言うよりも、農家さんであったり、いろんな人たちに「ほんま、助かった」と言われたら、その人、うれしいよなと思って。そこから、次、こんな自分でも生きていていいんだと思ってくれる。じゃあ、こんな自分でもいいんだったら「こういうことやってみたいな」と言ってくれたら、それはもう、みっけもんじゃないですか。それで、だめだったら何とかするというのが僕たち専門職ですよね。
だから、連携が、いろんなつながりが必要なんですよ。いろんな人に「ありがとう」って言ってもらうつながりもそうだし。世の中、本当に課題だらけだから、そこのニーズに入っていけばいいだけの話なのだと思います。「助かった。ありがとう」なんかなんぼでも言えるじゃないですか。そこでつながって、やってみたいことに関しても、出てきたらつなげればいいじゃないですか。そこで困ったらフォローを入ればいいと思います。
それは、何のための仕事なの。大事なことかもしれないけど。そこが僕らの自己実現への支援でしょという。「障害をお持ちの方だけのことですか」というと、そうではないんですよ。そんな、障害をお持ちの方だけ自己実現を目指して、僕らは、その人たちのためだけに生きたらいいんです。にはならないんだと思って。みんなじゃないですか、自分の自己実現のために生きるのって。


作物を育てている様子

つながっていくことの大切さとは?

みんなの自己実現、あなたの自己実現、そこに向けて頑張って動き出した時に見えてくるのが、僕たちの法人の理念である「共生のまちづくりや社会になる」ということでしょうと。だから、理念と、支援方針と、目指すべきことと、僕らの毎日やっていることは全部つながっているよと。だから、そこを見てほしい。そしたら、きっとやっていることと、思いと、法人の目指すこととかも全部つながるので。それが一本芯になっていれば、どんなことがあっても、ぶれることはないかな。揺れ動くけどみんなそれを持ってほしいと思ってます。上手にやりくりすることばかりを考えていたら、自己実現はただの理想となります。
思いから活動している方は、だいたいその芯を持っていますよね。福祉事業所の人、農家でそれを持っている人、漁師さんでもそれを持っている人、建築でもそれを持っている人、分野を超えてそういう思いを持っている人とつながって何をしましょうかという話になるんですよ。だから、福祉だけでつながっていても、限界があるんですよね。
もちろん、福祉の団体の中で声を上げることは大事なんですけど。次、必要なもの、足りないものをつくっていくのは、地域の中でそういう芯を持つ人たちと思いを共有することから始まるんやと思います。だから、スタッフもパートのおば様もみんな、それぞれの自己実現を目指してコミュニティ社会をつくりたい、という思いを分かってくれていたら、それで僕はいいと思っています。あとは、そのことで何をするかはみんなで考えたらいいじゃないですか。考えていること、やっていることが違ったらちゃんと議論したらいいじゃないですか。だって、向かっている方向は一緒だから。

プロフィール

杉田健一(すぎた・けんいち)

特定非営利活動法人 縁活 常務理事

短大で国文科を専攻。大木会もみじ寮あざみ寮に事務員として入職。後年、異動により現場の職員となり、また、ボランティアとして他法人が運営するグループホームで活動。平成21年にNPO法人縁活を立ち上げ、グループホームすうほ、平成23年には作業所おもやをスタート。平成25年にオモヤ☆キッチンの開店をはじめ、多岐分野にわたり活動している。

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