安部恵理(あべ・えり)さん
スポットライフくれぱす

社会福祉法人さわらび福祉会 スポットライフくれぱす(以下、くれぱす)副所長の安部恵理(あべ・えり)さんは大学卒業まで福祉は嫌だと思っていましたが、福祉の仕事だけに従事され続け、働きながら社会福祉士や精神保健福祉士などの資格を取得。分からないことに向き合うということを止めないことで見えてきた地域課題のひとつでもある“ひきこもり”に対して、安部さんが取り組んでいることなどについてお話をしていただきました。(平成30年12月10日 スポットライフくれぱすにて)

どうして今の仕事に従事されるようになったんですか?

大学では応用社会学科を専攻していました。今はもうなくて短命な学科やったんですけど……(笑)。福祉関係の仕事をやろうと思っていた訳でもなく、むしろ、私の勝手なイメージで福祉は嫌やと思っていたんですよね。(語弊があると思いますが)何となく偽善的なイメージがあって。でも、大学生活の最後の方になって進路を決める際に、興味があるのは児童福祉分野なんやなとなったんです。で、そこから就職活動の中で、資格を問わない児童福祉施設を運営している法人に就職しました。そこには、知的障害者の通所施設(現:就労継続支援B型)もあり、そこに配属になったのが障害がある方と関わる始まりでした。就職当初は、ほんとに無知極まりない状態で働いていて、障害特性とかも知らなかったのでさすがにあかんなと思って、社会福祉士の勉強をしました。資格をとったらもうちょっと支援できるようになるのかなと思ったんですけど、全然でした(笑)。
大学を出て初めは奈良で勤めていました。その後、京都に移った時に大阪の池田小学校の事件がありました。「あんたらのところも、そういう人がいるんか」みたいに言われて、その時の上司は「そういう人はいません。うちは知的障害者の施設です」と返答していました。じゃあ、その当時報道された精神障害者の施設には、そういう人がいるのかという自分の中で疑問というか違和感があって、何か知らないから不安で、腫れ物を触るようにしているんじゃないかと思ったんです……。とにかく、その時も勉強したら分かるかなと思って精神保健福祉士の勉強をしたんですが、これもまた机上の学習だけでは分からなかった(笑)。
しばらく京都で働いて地元に戻ろうかと思った時に、現在の法人で求人が出ていたので受けて就職することができました。知的とか精神とか意識していたわけではなかったですが、今思えば精神障害がある方との関わりにチャレンジしたいという考えがあったように思います。

利用者さん達と飾ったクリスマスグッズ

くれぱすの活動で安部さんが大切にしていることは何ですか?

現在の法人に就職してからは、ワークステーション虹で二年弱ぐらい支援員として働きました。その後、相談支援事業所(支援センターこのゆびとまれ)に配属となり相談員を長くさせてもらいました。現在の仕事もその延長線上にあるんですが、当時からご家族や行政機関からひきこもり状態の方の相談を受けたりしていました。そういう場合、ご本人が直接相談されることはほとんどないんです。ご家族や行政機関、病院等から連絡が入って、実際に自宅訪問をしたり、「どこか日中行けるとこないですか」というような相談を受けたりしていました。そんな中で、作業所に通所することが難しいなという方もおられて、相談員として月一回訪問することになって。作業所と自宅との中間の場所があればもう少し繋がることができるんじゃないかなという葛藤がありました。繋ぐところが作業所ぐらいになり、A作業所かB作業所かみたいな話でしたからね。施設っぽくなく家に近い環境の中で、ちょっと一歩を踏み出してみようかなと思ってもらえるような場所とか、通うことで少しずつステップアップというか、その人なりの進み方が出来るような取り組みができたらなあということを、法人内で検討をしてきて、2015年9月にくれぱすが開所できました。滋賀の縁創造実践センターの取り組みとも重なり、ひきこもり支援にも力を入れるようになりました。
くれぱすは、福祉サービスで言うと自立訓練事業です。利用者の方は、毎日通所される訳ではなくて週1~2回の方が多いです。有期限(基本2年 最長3年)の事業ということもあって、利用期間後半になると、くれぱす卒業の先をどうしていくかを考えていくことになるんですが、週5日通所できるということではなくて、次のステージを考える準備ができる場所としてくれぱすがあることが大切だと思っています。
くれぱすの利用者さんは、精神障害の方が多く、ほとんどの方が通院されながら通われているんです。以前は作業所に行っていましたという方や、職を転々とされてきた方とか、様々チャレンジはしながらも、家にいて何年も経過していたという方が多いです。当たり前ですけど、色々な背景が一人ひとりにはあって、人との関わりの中で上手くいかなかった経験をされたり、職場で何かうまくいかなかったり、負の積み上げをされていることも多く、不安や緊張が強い状態で初めは来られます。
なので、まずはどうぞ。というか、そのままで大丈夫です。ということを言葉で細かくということではないんですけれども、そういう雰囲気を作れるように意識しています。
利用されている皆さんは、自分も通いにくいという体験をされているので、優しいと言いますか、柔らかい雰囲気みたいなものがありますね。事業所の活動としても少人数でということは最初から考えていたことで、困りごとに対してすぐにキャッチできることも大事なことだと思っています。

活動スペース (活動報告写真が壁一面にびっしり)

私自身は、主に訪問支援をしていますが、通所することより、まず生活の中で少しずつ自分なりの生活の仕方を習得していったりとか、いずれ少し外に出るためのきっかけづくりから始めるという方もいます。人によったら通所との併用もあり、ひとり暮らしをされている等で訪問に行ったりしているということもあります。くれぱすに繋がった方は、その段階で意思確認をしていることもあり訪問した際に完全拒否という方はおられないですが、訪問予定は知っていて出かける人や、寝てしまいましたという方はおられます(笑)。精神状態の影響もあり「もう、来んといて」みたいに言わはることもありますが、次行くと何事もなかったかのように受け入れてくれはったり……。
対人援助の仕事なので、日々良くも悪くも違うのは面白い。というとちょっと言葉が変ですけど、すごく良いなと思っています。いろんな方のああなるほどみたいな(笑)。
例えば、鉛筆を配ってくれはったことで「ありがとうございます」なんて言わへんかった人が「ありがとうございます」って相手に言ってはるとか。全然しゃべってはらへんかった利用者さん同士で、ちょっと会話が生まれたりとか、当たり前と言えば当たり前なのかもしれませんし、とても小さなことなのかもしれませんけど、その人にとっては大きなことだと思うんです。何かそういう時間を見られるというのはありがたいなと思うんです。

だから、就職出来たとかという大きなことだけじゃなくて、日常のほんの些細に思えることの中でもその瞬間を見た時に、「私は、見た!」って思ってしまいます。それを私も上手くご本人に返せるとよいなと思っているですけどね。

昼食づくり(予定表)

くれぱすが目指す支援についてのお考えをお聞かせください

最近だと11月末には佐川美術館に行ってきました。近場というか、季節を感じるプログラムとして紅葉を見に行ったりとか、希望が丘公園へ行ったりとか、プチ外出はちょこちょこやっています。年1回ぐらいは、京都水族館とか、その前は京都動物園とか(笑)。
屋内でのプログラムは、生活に即したもので、調理実習をしたりとか、洗濯とか掃除とか、なかなかお家ではされない方とかもいらっしゃるんで、裁縫をしたりとか、あとは学習会やSST(ソーシャル・スキルズ・トレーニング)をやったり、健康づくりで軽い体操や外での軽い運動等をしています。
創作活動や外出企画を考えたり、室内の飾りで、今時期だとハロウィンやクリスマス仕様に皆さんが整えてくれはるんです。そういった色んな活動を通して、ちょっと人と一緒にやるとか、人がいるその場にいられるとか、少しのコミュニケーションが生まれるように人との繋がりというか、やりとりから少しずつ積み上げていくことができればと思っています。本当にちょっとしたことなんやと思うんです。「ハサミ貸してください」みたいなことも最初は言えない場合もあり、無言で取るか、職員に言うかみたいなところからスタートして、「少し借りて良いですか」と言えるようになることもあります。活動の中で例えば褒め合うプログラムで、相手の良いところを言ってみましょうとか、ちょっと会話が生まれるプログラムをすることで休憩時間とかにも喋れるようになったり、休みの日の出来事を教えあったり、もう一度ありのままを受け入れてもらえることで、自信を回復してもらえると良いなと思っています。

利用者の方もここに繋がる方というのは、どこかには行きたい。人づきあいに苦手さをもちつつ、このままではあまり良くないということを感じながら、でも……。みたいな方が多いのかなと思います。ゆくゆくは仕事をしたい、でも今すぐは働けない、不安。と言われる方も少なくないです。そんな中で、通所活動の担当スタッフはすごく皆さんを受容されるんです。現状に不安をもつ利用者さんは、そんな環境の中で少しずつ前を向いて行かれている気がします。やっぱり人って変わるんだなあと思うんです。始めの表情は緊張していて本当に固く、聞いたことは答えてくれはるけど、それ以上は大丈夫です。みたいにとても距離があります。でも、通所されて色んな体験をされることで表情が和らいだり、笑顔でお話をしてくれたりするようになっていかれます。

そういう場所が必要だと思っていますし、そういう場所でありたいと願っています。

事業所内には、外出の思い出が写真や図でたくさん記録されている
プロフィール

安部 恵理(あべ・えり)

社会福祉法人さわらび福祉会 スポットライフくれぱす 副所長

大学では応用社会学を修了。障害者通所施設、生活相談員などの福祉現場を経験し、平成27年9月のスポットライフくれぱす開所当初から従事する。日常の中で、一人ひとりの思いや変化を共有しながら、日々のプロセスを大切にできる支援をめざしている。

社会福祉法人さわらび福祉会 スポットライフくれぱす