大橋亮介(おおはし・りょうすけ)さんは、和太鼓奏者として「ドン!と一発、笑顔をつなぎ・心をつなぐ」をモットーに近江八幡を拠点に活動されています。また、和太鼓の指導者としても活動されており、障害の有無に関わらず子供から大人まで幅広く和太鼓の魅力を伝えています。和太鼓を始められたきっかけ、障害のある方の音楽活動、今後の目標など伺ってきました。
(令和2年5月13日 社会福祉法人グロー法人本部にて) ※写真(上)は和太鼓演奏時の大橋亮介さん
和太鼓との出会い
中学1年生の時に「あづち信長出陣太鼓」という和太鼓チームのメンバー募集の案内が回覧板で回ってきて、それがきっかけでチームに参加したのが和太鼓との出会いです。それまで和太鼓はお祭りの時のイメージしかなかったんですが、学校で誰もやってなさそうだったので、なんとなくやってみたら楽しかったという感じです。当時、チームの中で子供は僕一人だけで、周りはみんな大人でした。それから、他のアマチュアチームにも参加して演奏していました。
指導する側となったきっかけは、20歳ぐらいのときに、保育園で太鼓を教える機会があり、和太鼓のメンバー数名で行ったことです。いざやってみたら、保育園児に太鼓を教えるのはすごく難しかったのですよ。言葉が通じないし、それまで保育園児と関わる機会がなかったので、宇宙人に出会ったみたいな感じでした(笑)。そこから教え方を自分でいろいろ勉強しながらやっていくと指導することも楽しくなってきました。それ以降も保育園で指導する機会が増えたり、あづち信長出陣太鼓のメンバーに指導することになったりといろいろやっていたら、和太鼓が仕事になったという感じです。
今は保育園児からシニア層までの様々な世代の方々を指導していますけれども、保育園児に教えるのが一番得意かなと思います。子供に教えるのが一番好きと言うとシニアのメンバーに怒られるかもしれないですけれど(笑)。
本人がやりたいことをできるように
2011年に近江八幡で「ひむれ太鼓」という和太鼓チームを、いろんな方と一緒に立ち上げたんです。それまで、近江八幡で子供が和太鼓を叩ける環境はありませんでした。僕は太鼓が好きだし太鼓を教えていることもあり、もっといろんな人が太鼓に触れる機会を作るべきなのではと思いました。起ち上げたら十数名の人が集まり、障害がある子供も参加してくれました。でも、みんなで一緒に活動していると、それぞれがやりたいことや、できることの差が広がってきたのです。このような状況では、それぞれが満足に楽しめないと思い、2013年10月から障害がある子供のグループ、小学生のグループ、中学生のグループの3つに分けました。そして、2015年に障害がある子供の和太鼓グループ「かか太鼓」というグループ名で7人のメンバーと週1回活動しています。
僕が指導するときに大切にしていることは、本人がやりたいことをできるように応援することです。例えば、かっこよく太鼓を叩きたい、かっこよく演奏したいという子供がいれば、かっこいい叩き方や動き方などにスポットを当てて教えます。障害がある子は、僕がリズムをとったら自然とみんながセッションみたいな感じで叩き始め、体で自由に表現したり、踊り出したりします。それは、障害がない子はなかなかできないです。やっぱり、それぞれがしたいことに合わせてすることは必要だと思います。もちろん技術的なことも教えますが、僕はやりたいことをできるように応援するというスタンスなので、「これをやりなさい!」といって引っ張るのではなくて、後ろから押してあげるようなイメージです。なので、その人がやりたいことを見つけるようにします。障害の有無に関係なく、子供や大人も、本人がしたいことをいろいろ探りながらやっています。この人はどんなことをどうしたいだろうとか。直接言葉で聞くこともあります。でも、障害がある人の中には言葉で説明されることが苦手な人もいます。だから、「こんなんせえへん?」と、僕が実際に太鼓を叩いてみて、「かっこいいやろ」とか。そんな感じで、見せることで刺激したりします。そして、いろいろ試して本人の反応を見たり、相談しながらやっています。
みんなで一緒に音楽を楽しむ
「ドン!と一発和太鼓響演」という僕が主催している和太鼓のイベントがあります。舞台で演奏することは、生徒さんにとって、これまでの活動で練習してきたことを、人前で発表する機会となり、それに向けて練習するという原動力につながります。とりあえず和太鼓をやってみたいから始めた人も、練習を続けていくと、だんだんと人前でやりたいという気持ちが生まれてきたり、毎年の恒例行事として、それに向けて人前で演奏することが目標になります。人前でみせることを何回もやっていると、次は、こんなことやろうかとか、相談しながら次のステップに進みます。障害児者の「かか太鼓」のメンバーでも、本番では、もちろん緊張する子もいますし、本番だけむっちゃ気合いが入っている子とか、練習でやってないようなことを本番で突然見せてくれることもあります。でも、それが面白かったりするんです。
僕の合言葉というか、モットーに、「ドン!と一発、笑顔をつなぎ・心をつなぐ」という言葉があります。太鼓をドンと一発打つだけで叩く人も、聞く人も笑顔が生まれて、その笑顔は人と人との心をつなぐツールだと僕は信じているんです。一緒に太鼓をやる人同士でしたら、太鼓を打つだけで笑顔が生まれて、一緒にやっているという気持ちでつながります。見ている人も、演奏を通じて太鼓の音で笑顔になって、心がつながるというような環境が僕はすごく好きなんです。だから、発表会という場を通じて、障害がある人や外国人とか関係なく、みんながつながっていく、それだけで僕は嬉しいです。
自分とみんなと和太鼓
同じ和太鼓を演奏する人でも、ソロでテクニックを見せる人もいます。ただ、僕にとって和太鼓というのは、自分と和太鼓の関係だけではなくて、自分とみんなと和太鼓という、みんなとのつながりを作りたいんです。だから、ただ単に難しいリズムを演奏するだけより、みんなで何かを一緒にやるということが好きなんです。舞台で発表する時の並び方でも、みんながお客さんの方を向いて一列でやるより、ハの字になって演奏することで互いの顔が見えるんですよ。やっぱり仲間の顔を見ながら一緒にやっているという雰囲気が楽しいんです。だから、僕の発表会ではいつもハの字が多いです(笑)。
今年の3月に「第7回ドン!と一発和太鼓響演」や他のイベントも予定していたのですが、残念ながら新型コロナウイルスの影響で中止となりました。みんなで集まることができない状態で、それでも和太鼓をやりたい人のために、今は屋外で和太鼓の練習が出来る場所を紹介したり、無料で和太鼓を貸し出したりしています。
これからの目標について
小学生の好きな習い事ランキングのベスト3に「和太鼓」が入るようにするという目標があります。ひむれ太鼓は小学生から参加できますが、「おれ、和太鼓やっている」「私、和太鼓やっている」ということが、恥ずかしい子がいたりするんですよ。なので、まずは、近江八幡だけでもいいのでベスト3に「和太鼓」が入れば、和太鼓が子供たちにとってすごく自慢になるんですよ。そういう世界になったら、すごく楽しそうやなと思って。それと、将来、和太鼓のプロになりたいという子供たちのために、滋賀県でプロになれる環境を作りたいと思っています。将来はプロになりたい、プロに憧れている子供もいるんですよ。全国には有名なプロの和太鼓奏者やチームがたくさんありますが、もっと滋賀の身近なところで、プロとして和太鼓の仕事ができる環境や子供達の将来の夢に「滋賀で和太鼓のプロになる」という選択肢を作りたいなと思っています。
僕は、和太鼓を使って、こんなことができるんだよとか、今はいろんな人に知ってもらったらいいかなと思っています。そして、演奏者としても、指導者としても、年齢を問わず、太鼓をやっている人、子供たちから憧れる存在であり続けたいなと思います。「先生、かっこいい」みたいな(笑)。それが和太鼓を演奏する目的の一つでもあります。
「ドン!と一発、笑顔をつなぎ・心をつなぐ」
この言葉を合言葉に、これからも和太鼓を通してたくさんの繋がりを作っていきたいと思います。
大橋 亮介(おおはし・りょうすけ)
和太鼓奏者
13歳の頃より和太鼓を始める。プロチームのサポートメンバーとして韓国公演等に参加。現在、地元の滋賀県近江八幡市を拠点に演奏活動を行っている。プロ和太鼓奏者として活動する傍ら、保育園や中学校・地域のチームなどで指導を行っており、演奏・指導の両面で和太鼓文化を近江八幡から盛り上げようと奮闘している。
和太鼓奏者 大橋亮介 公式HP
りょう先生の和太鼓教室HP
編集後記
大橋さんは「ひむれ太鼓」の指導を通じて、障害がある子供とない子供で、それぞれ発達の段階やスピードに違いがあることに着目されグループを分けられました。それは、それぞれがやりたいこと、表現したいことを尊重するためでした。糸賀一雄氏は、年齢が経過すると共に新たな能力を獲得していく「タテへの発達」と、今持てる力を豊かに発揮することで生活の幅が出てくる、人との関わりが広がるなど、人間関係をふくらませていく様子を「ヨコへの発達」と捉えて、どんなに障害が重くても発達するとおっしゃっています。大橋さんは指導を行うなかで「ヨコへの発達」に気付かれ、実践されていると感じました。大橋さんが、現在指導している人は150人ほどいらっしゃるそうです。大橋さんの周りにはたくさんの人がいて、モットーである「笑顔をつなぎ・心をつなぐ」のように和太鼓を通じて、そこから笑顔が生まれ、たくさんの人との繋がりを作られています。早く今の状況が収まり、再びみんなで一緒に和太鼓を楽しめる日が待ち遠しいです。
(聞き手 佐倉・石田)
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