田中洋輔(たなか・ようすけ)さん
NPO法人D.Live

NPO法人D.Live の代表理事の田中洋輔(たなか・ようすけ)さんは、滋賀県草津市を中心に、子供の居場所や自信を育む教室運営をされています。田中さん自身、高校生の頃に不登校、大学生の頃に引きこもりを経験され、現在は不登校や自尊感情についての講演や研修も行っています。また、LINE相談やYouTuberとしての活動にも力を入れておられます。田中さんが考える不登校をめぐる現状やD.Liveの取り組みの背景についてお話をお伺いしました。
(令和元年8月26日 マグハウスにて)

大学時代に団体D.Liveを立ち上げる

大学に入って1ヶ月ぐらいで辞めたいなと思ったんですよ。親に言ったら、すぐに止められました。それでも、しんどくなって夏休み明け以降、次の2回生の夏が終わるぐらいまでほぼ行ってなかったので、下宿先でずっと引きこもっていたんです。それを1年間ぐらいやっていて、エネルギーが溜まり、そろそろ何かしなきゃという思いがありました。もうちょっと厳密な話をすると、学校を変わろうと思って受験勉強をしていたのです。
でも受験に落ちて、もう他の環境に変えることもできないし、今の学校に行くしかないなと腹をくくって、何とかしようと思って、ちょっと外に出られるようになったのがちょうど夏ぐらいでした。最初にバイトを始めたり、ちょっとずつ一歩を踏み出せたというところです。こういう団体をやりたいと考えるようになったのは、もう少し後ですね。子供が好きで、教育に興味がありました。「NPO法人」という形態を知って、それでやってみたいなと思って。知り合いの人に相談して、「まずは団体を作るところからだよ」という話になって、2009年に団体D.Liveを立ち上げました。ざっくりといえばそんな感じです。そのときは大学生で、京都で活動していて、2012年に補助金をいただいて、NPO法人になったんです。その頃、大阪、京都、滋賀あたりで活動拠点を探していたんですけれども、その中で、滋賀県は15歳未満の人口比率が多く、引きこもりや不登校の若者支援が少ないなというのが実感としてありました。やっぱり大阪、京都は多いんです。滋賀は子供が増えているにもかかわらず、なかなか支援が届いていないというのがあって、僕たちにできることがあるんじゃないかということで滋賀に来たという経緯です。

子供の教室からフリースクールへ

もともと不登校支援をやろうとは思っていませんでした。自信をつける教室をしていたら、不登校の子が増えてきた。教室にたまたま不登校の子供が来て、その子に対しては不登校というよりは、単純に思春期の男の子、女の子という関わりをしていました。実際やってみて、不登校をそこから学んだという感じです。そしてあそこは不登校の子が元気になるところだという噂が広がって、「学校に行くことができない子供たちのフリースクールみたいなものを作ってほしい」と親御さんからのお声がけがあり、「昼TRY部」(※)を作ったのが始まりです。僕らはできると思っていなかったし、自信もなかったし、やろうとも思っていなかったというのが本当のところですね。
別に、フリースクールでなくてもいいと思うのですが、要は「学校へ行かない、行けない」となったときに、選択肢が今は少ないのです。例えば、小学生低学年が行けるフリースクールは、滋賀県だと1か所か2か所ぐらい。行く場所がない。さらに、低学年の子でお母さんが働いていると、不登校になった途端に仕事に行けなくなるんですよ。それが一番問題で、預かってくれるところや学校以外に居ていい場所、ほかの人と関われる場所というのは必要だとは思います。それはフリースクールではなくても、朝から子供向けに喫茶店をやっているところでもいいじゃないですか。子供たちがそこに来て安心できて、お母さんたちもそこに預けていることによって安心できる、そういうところは必要だなと思いますね。
フリースクールには、「学校なんか行かなくていい」という支援があるところもあるし、「うちは絶対に学校に戻します」みたいなところもありますが、子供次第かなと思っています。子供が戻りたいなと思ったら別に戻ったらいいと思うし。現状としては学校に行かないことに対するリスクは多いですよね。勉強も一人でなかなかできないし。そういう意味では、学校はすごく効率的なので、学校に行くという選択肢も大事だけれども、無理してまで行く必要はないと思うので、その辺は本人に任せています。結果的に、どうなっているかというと、子供は勝手に学校に行くという感じになっています。
「学校に行く、行かない」というのはそんなに大きなことではないので。それよりはその子があるがままで生きていけるかどうかの方が大事なので。なんかしんどそうに学校に行っているのであれば、行かない方がいいと思うし。でも、楽しく学校に行ける、もしくは学校に行って学ぶことがあると本人が思うのであれば、行ったらいいと思います。

※不登校の子供たちが安心して通える昼の居場所
(毎週月・水・木10:00~13:00、金11:00~14:00の3時間実施)

昼TRY部の内観(瀬田)

不登校の背景

10年、20年前に比べて、子供の社会はものすごく難しくなっています。子供のコミュニケーション力が今はとても高いんです。それは、スマホがあるのもそうですし、見えないルールがとても多い。でも、中にはコミュニケーションが苦手な子もいる。例えば、こういうことはしない、あの子に嫌がらせをしたら駄目とか、こうすべきという暗黙のルールがあって、それは誰も教えてくれません。学校は暗黙知が多すぎるんですよ。人の顔色を伺いながら、会得していくというのが学校生活なので、難しいんですよ。そして、そのルールを破ったやつは仲間外れにされる。
社交性感覚というのがあって、簡単に言うと、分かってくれる人がいるという話です。特に、学校社会は、ほとんど大人もいないし、基本的に友だち同士の付き合いじゃないですか。その中で、自分が言っていることが相手に伝わるという感覚と、相手が言っていることがちゃんと分かるという感覚はすごく大事です。それが分からないと宇宙人と一緒にいるみたいな感覚になるので。宇宙人とずっといて、たまに、この辺で笑い声が聞こえたら、「俺のことを笑っているのではないか」と思ったりするじゃないですか。あとは、「何をしゃべっているんやろうか」と分からなくて周りの話に入っていけない、というところでしんどくなる。なので、コミュニケーションは関係します。
それと、居場所がないというのが大きいかなと思います。例えば、ドラえもんでいうと子供たちの遊び場である「空き地」があります。今の子供たちが遊びに行くところはそんなにないです。要は自分の本音が言える場所がないので、しんどいですよね。

田中さんが考える「居場所」とは?

居場所というのはすごく難しいなと思っていて、僕はできるだけ「居場所」という言葉を使わないようにしているんです。居場所ってなんとなく曖昧じゃないですか。いい言葉で使いやすいですよ。「子供たちの居場所をやっていますよ」と言うと何かいいことやってそうなイメージ。実際、僕らは草津市から委託を受け、「子どもの居場所づくり事業」をやっているんですけれども。抽象的にはすごく難しいなと思うんです。なので、本来の意味から少しずれますが、居場所とは、自分が自分でいられる場所ですね。それは、別に作るものじゃないと思っていて、居場所というのは作るんじゃなくてできるものだと僕は思っています。
studio-Lの山崎亮さんがよく言っているのが、銀行は3時ぐらいに閉まるじゃないですか。では、どっかの街で銀行が閉まった3時ぐらいからおばちゃんたちが椅子を持ってきてそこで座ってみんなでしゃべったり、お菓子を食べたりする。それは居場所だよね、と言うんですよ。そこの場所が居場所なのではなくて、どっかに行ってみんなで集まることが、人がそこで何かやることがたぶん居場所なので。要するに、モノじゃないと思うんです。自分のことが出せて、自分でいられるところであれば、どこでも居場所なのかなと思っています。

不登校に対する周囲の理解について

社会的に不登校という言葉の認知度は良くも悪くも上がっていると思います。ただ、認識が高まっているかと言えば多分そこまでではない。先生に関してはちょっとずつ高まっています。若い先生は不登校と言うと、比較的高い認識を持っていて、関心も高いなと思っています。不登校は文部科学省が言っているように問題行動ではないという考え方です。先生たちの中には、不登校ではなく登校拒否という認識を持っている方もいます。登校拒否は甘えで、どちらかというと本人が悪い。お前が甘えているんだ、お前が怠けているんだという考え方ですね。
不登校の認知度が上がっているのは必ずしも良いことだけではないというのは、分かりやすい例でいうと、10歳で「YouTuberになるぜ」という不登校の子とか。結構、マスコミや世間は、学校は行かないけれども成功したみたいなサクセスストーリーが好きじゃないですか。学校に行かなくてもYouTuberになれるんだみたいな。あとは、「あの子たちは天才だ」、というような極端な例が多い。そういうふうになんとなくニュースで聞いたことがあるなというのが社会の認識かなとは思います。
世論は正直どうでもいいかなと。難しいところですね。不登校のことを誤解されていると、不登校の子は結局生きづらくなるので、そこに関しては変えていきたいとは思いますが、世論はそこまでコントロールできない。基本的に聞いている人たちはそこまで関心ないし。僕らだって興味がないことなんかすって抜けます。そこでいくら声高に叫んだって難しいと思うんですよ。やれることをやっていくけれども、そこまで力を入れても仕方がないかなと思っています。でも、変わっていくと思いますよ。だって、不登校経験者というのは、社会に出ていくわけですから、その人たちが先生になるとか、理解ある先生のもとで理解ある保護者になっていくので、波及はしていくかなと思いますから、そこまで悲観的には思ってないです。

昼TRY部の活動で参考にされた「ボードゲームカタログ202」

D.Live のYouTubeチャンネルについて

YouTubeをやる経緯としては、3年ぐらい不登校支援をして、そこで痛感したのは、不登校に関して良い情報がほとんどないんですよ。自分の中には理論もあるし、知識もあるし、こうやったらいけるよね、という分かりやすいルートがあるんですよ。でも、その情報が全然発信されてないんです。これはマジかと思って。困っている人がいっぱいいるんですよね。情報がないと変なところに踊らされることもあります。詐欺も多いですし、情報商材を30万で売り付けられるというケースもあります。なので、良い情報を発信したいなということと、僕らは関西の団体ですが、LINE相談の問い合わせだと全国から来るんです。沖縄や北海道、海外ではロサンゼルスからもあるんですよ。そうなったときにやっぱりなかなか情報を届けられないというところもあるのと、LINEが来て相談で返すだけより、全員に返す方がいいなと思って。もったいないというか、1人の人が相談するということは100人ぐらいは悩んでいるということなので、できるだけ多くの人にちゃんと不登校の情報を伝えたいと思っていて、YouTubeで動画の配信を始めた、というところですね。
講座だと受講料がかかる、時間が取れない、遠くて行けない、そういう物理的制約があるので。でもYouTubeだと誰でも見られるし、動画はどこでも見られる、スマホでも見られる、音声だけでもいける、無料で見られる。それでYouTubeは力を入れてやっていますね。

若い方へのメッセージ

ネガティブパワーというか、ネガティブな感情は、僕はすごく大事だと思っています。例えば、子供たちが、友だちからいじめられたとか恨んでいることがあったら、とても恨めと。どうやって復讐するかを一緒に考える。その感情はものすごく大事で、ネガティブなエネルギーは絶対に強いんですよ。嫉妬心は強いじゃないですか。働く上でもすごく大事だなと思っています。それをいかにプラスに変換していくかという作業で、着火剤としてネガティブパワーはものすごく使えます。最初の初動でバーンと打ち上げて、飛んでいる最中にだんだん違う目標とか、ポジティブな方に変換していけばいいのですが、大人は最初からどっちかというと、いい感じというか、「働く意味は」とか言ったりするじゃないですか。僕は、そういうポジティブなことを言わせようということではなくて、何かモテたい、お金を稼ぎたい、あいつを見返したい、そういうエネルギーで働くというのが実は大事なのではないかなと思っています。僕の原動力は、基本的には悔しさです。「なんで不登校の情報がこんなにないんだろう」という世間に対しての恨み辛み、くそ~と思っています。いろんな人に届けたいというのはもちろんですが、表面的な理由のその下にある、分かりやすい情報がない社会への嘆きの方が強いです。人を笑顔にしたい、そんな崇高な思いでやっているというよりは、「子供を笑顔にしたい」ではなくて、「なんで成長できないのだろう」という好奇心です。そういうのが分かりやすい自分のモチベーションです。何を大事にしたいのか分かってくることによって、やることが見えてくるかなと思いますね。

プロフィール

田中 洋輔(たなか・ようすけ)

NPO法人D.Live  代表理事

立命館大学文学部卒業。プロ野球選手を目指すも、強豪の高校へ入り挫折し不登校に。自身の経験から、自分に自信が持てず苦しんでいる子がいる現状を変えたいと思い、2009年にD.Liveを設立。子供の居場所や自信を育む教室運営。PTAや地域団体などにて、不登校や自尊感情についての講演・研修も行う。

 

NPO法人D.LiveのHP
NPO法人D.Liveのインスタグラムページ

 

編集後記

不登校の子供たちが通えるフリースクールの運営や、不登校についての講演を全国でされている田中さんですが、始めから不登校支援を目標に活動されていたわけではないと知り、団体を立ち上げられたことに対する率直な気持ちをお聞きできたように感じます。崇高なビジョンがあって団体を作ったのではなく、フリースクールをする中で方向性が見えてきたという経緯には現実味があり、興味ややりたいことが見つからず、学校にも行けない、行く気になれないという子供たちにとっても、それは励みになる納得のいくことだと思います。
また、フリースクールは子供たちにとっての「居場所」すなわち「自分が自分でいられる場所」になっていて、それを可能にしているのは、共に寄り添いつつも本人の思いを常に尊重するD.Liveのアプローチなのでしょう。
そして、不登校に関する情報が少ない社会に対しては、講演やYouTubeを通して全力で働きかけるけれども、世論や認識については、何かを変えようともがくのではなく今できることをする。そのような田中さんの姿勢を目の当たりにし、居場所ができていくことで、不登校の現状は変わるのだと思いました。子供と大人の手によって、子供たちが自信を持ち、安心して自分でいられる場ができていくことは、糸賀一雄が記した「子どもが育ち大人も育つ世界」の実現につながるのではないでしょうか。

(聞き手 佐倉・石田)