PDCAサイクルで経験を積み上げるプログラム一般社団法人セレンディップ

事業所訪問

福祉事業所は、利用されている方々にどのようなプログラム(活動)が有効かと模索しながらサービスを提供しています。このページは、一般社団法人セレンディップが提供しているプログラムの中でも「PDCAサイクルで経験を積み上げるプログラム」に焦点をあてお伝えします。日々のプログラム(活動)における支援の考え方や手法等のヒントが見つかるかもしれません。

(ケアサービス推進課 北川)

Ⅰ,一般社団法人セレンディップ

Ⅱ,PDCAサイクルで経験を積み上げるプログラム

Ⅲ,支援のヒント

(1)利用者が通所することの目的を意識する
(2)先輩と後輩という関係で学ぶ
(3)プログラムに参加することで関係性を積み上げる

Ⅰ,一般社団法人セレンディップ(平成30年12月11日訪問)

事業所訪問の第1弾は、一般社団法人セレンディップ(以下、セレンディップ)です。

働きたいけど今は自信がない。そんな人に向けて生活習慣を立て直すところからサポートされています。(自立訓練(生活訓練)事業)

石山駅から徒歩5分圏内のオレンジ色のビルの中にあるセレンディップ。
事業所の前にはこのようなロゴの入った看板があります。

これは、開設当初に「編み直し」というテーマからつくられたセレンディップのロゴです。社会経験や社会スキルを自分のものとして編んでいく(身につけていく)際に、少しこんがらかっていったものを、もう一度ほどいて編み直していくというイメージからデザインされました。

そもそも、セレンディップという名前の由来は、十八世紀の英作家ウォルポールのおとぎ話「セレンディップの三人の王子」からです。そのおとぎ話の中で「セレンディピティ」という言葉があり、「偶然と才気によって、探してもいなかったものを発見する」という意味があります。その言葉から「素敵な寄り道」ができ、「予想外のものが見つかる」そんな場所でありたいということで名付けられました。

セレンディップに入ると玄関でそのおとぎ話が出迎えてくれます。部屋の中では何やら利用者とスタッフがパソコンとにらめっこ。この日の午後のプログラムは「セレシピ」というプログラムが実施されていました。

今回お話をうかがったのは、代表理事の小林さんと理事の竹本さん。
名刺を拝見すると、小林さんはJCDAキャリアコンサルタント、竹本さんは産業カウンセラーの資格をお持ちだということでした。二人はそれぞれ違う道を歩んでいたところ、飲み会兼勉強会として定期的に集まることに……。

セレンディップの立ち上げは、三人のスタッフ(小林さん、竹本さん、正木さん)の自主的な勉強会がきっかけでした。この勉強会は、本を一冊選びそこからテーマを決めて議題を出し話し合う形式。何度も開催され、そこで話し合われた内容を形にしたものの一つがセレンディップでした。

事業所に通えない方や引きこもり傾向にある方々が、もう一度社会に繋がり直すような場所。
働く前のさらに前準備として「働く土台を身につける」。そんなテーマを持って始まったのがセレンディップです。

Ⅱ,PDCAサイクルで経験を積み上げるプログラム

セレンディップのプログラムテーマは大きく分けて3つあります。

①生活スキルのこと

②生活リズム(身体を動かすetc)のこと

③働く(社会に出る)こと

一人暮らしをした時に出会うであろうことに一通り出会っておくということが大きなねらいになっています。

プログラムとして設定しているものは15個以上あり、今回はその中の①調理実習、②調理実習準備、③「セレシピ」作成の3つのプログラムを中心にお話を伺いました。

「セレシピ」とは、①調理準備、②調理実習の2つのプログラムでつくりだした情報をレシピ集として冊子にまとめたものです。

開設当初の調理プログラムは、「料理をつくる」ということがプログラムのねらいでしたが、料理をつくって終わりではなく、その先の生活を見据え、調理プログラムにセレシピの制作というプログラムを組み込むことで、準備(Plan)→実施(Do)→評価(Check)→改善(Action)のPDCAサイクルをつくり、プログラムを受けていると自然と経験が積み上がっていくイメージで構成されています。

【調理準備→調理実習→セレシピ作成のPDCAサイクル】(以下、※は支援者が気をつける点)

1.調理準備

調理準備プログラムの重要な点は、その後の見通しや計画をたてるということにあります。また、どのような手順で進めていくかを検討していくことで、利用者同士の話し合いをする機会をつくりだします。

※1.全体の見通しが分かるように、調理準備の段階で、模造紙を使って調理手順を書き出し、誰もが見られるように貼っておきます。
※2.分かりやすいように、写真を貼るなど工夫をします。

2,調理実習

調理実習では2時間という限られた時間の中で、ちゃんと完成までもっていかなければいけない時間と段取りを意識する必要があります。また、自炊能力や手順どおりに物事を遂行する能力などを身につけることをねらいとしています。

※3.時間制限のある中でちゃんとゴールまで行くために、利用者の特性やどう関わるかを考えておきます。
※4.手順について、例えば、A→B→Cの手順でBを抜いてA→Cと横着をした場合、他の人と連携がとれなくなってしまったり、失敗の原因になるということを考えてもらう機会とします。

3,「セレシピ」作成

【作成過程】

(1)各担当ページを決めます。(1人につき1つのレシピをまとめます)
(2)調理準備プログラムで作成した模造紙から文章の書き出しをしていきます。
(3)その模造紙と書き出した文章を見比べ、間違っていないかということをチェックしていきます。
(4)チェック後は、もうちょっと読みやすいようにできないかということを考えていきます。模造紙の段階で貼られていた写真を、調理実習プログラムで撮影した写真に変えて貼ったり、写真がなかったり分かりにくいものは、イラストを描きスキャンして貼りつけたりもします。
(5)各担当ページをあわせていくことで、「セレシピ」が出来上がります。

【「セレシピ」作成プログラムができるまで】

プログラムを考える上で、その人に何が良いかというのは最初はわかりません。例えば、話すのが得意な人もいれば、文章を書くのが得意な人もいれば、絵を描くのが得意な人もいます。「とりあえず、全部やってみよう!」一人ひとりがレシピ1ページの担当となりまとめることから「セレシピ」作成のプログラムがはじまりました。一人で1ページでも、みんなでまとめたら一冊のコンテンツとなります。

また、自分でまとめた1ページをみんなに説明していくことも必要になります。説明するというのはコミュニケーションの第1歩ですし、他の人たちと比べたり、他の人の表現を見るということにもなります。
いろいろな手法でチャンネルを持ち、自己表現できる環境に慣れていく機会を「セレシピ」や他の自己表現のプログラムでは設定されていました。

セレシピ2中身(焼き炒め物・揚げ・丼・麺)抜粋

Ⅲ,支援のヒント

(1)利用者が通所することの目的を意識する

自立訓練(生活訓練)の事業は2年間という期限があります。2年間という期限の中では、様々な課題を全てクリアしていくということは難しく。こういうことを身につけてほしいということをある程度絞る必要性があります。
例えば、セレンディップに通っている内の一人は進学を目指していたり、セレンディップにちょっと来て自習をして、午後から学校(通信高校)に行くという人もいます。事業所のテーマは「働く土台を身につける」ということですが、就労じゃない目標があることも大切で、その人にあった通所の目的について考えることが求められています。

また、最近、セレンディップの見学に来る方は10代~30代の方が多く、他の福祉サービスには繋がらなくてという方が増えてきたようです。高校卒業の際に進路が未決定だとか、20歳まで福祉に出会ってこなかった方も中にはいます。保護者の方からの相談があるということも増えているようです。そのような人達が来られる場所や、もう一度社会に繋がり直すような場所。働く前のさらに前準備みたいなところを積み上げていく時間が必要になっており、そのための場所やプログラムのアレンジが重要となっています。

(2)先輩と後輩という関係

プログラムを通して、様々な経験をするなかで先輩と後輩という関係ができています。

セレンディップでは、先輩方に後輩を教えてもらうという形を推し進めており、教えるということを経験してもらっています。先輩である人達もそうやって教えてもらっているので、後輩に教えなければという気持ちをもたれています。繰り返し教えるということを通して、人に伝えることが上手になりますし、それと連動して、自分たちが何の作業をしなければいけないとか、他の人のことも気にしてあげなければいけないという意識が生まれているようです。

(3)プログラムに参加することで関係性を積み上げる

彼らにとってクリアしなければいけない課題の把握、必要な能力を伸ばせるようなプログラム、どのようにアプローチしていくかという話はスタッフ間で共有されています。参加してプログラムを受けるということは、本人の成長ということだけでなく、支援者側が本人のことを分かってくるということにおいても大切です。

分かってくると何か対応がとれたり、お互いの関係性を積み上げていくことができます。例えば、「服、匂うよ」という指摘も関係性によって受取り方が大きく変わります。

まずは、通所してもらう。プログラムに参加してもらう。通所しプログラムを受ければ受けるほど加速度的にお互いに分かりあい、次に繋がっていくことになります。